私には不思議なのですが、採用や人事の経験が豊富な人を、「人を見る目がある」と考える傾向があるようです。他人がそのように勝手に考えるのはいいとしても、人事経験の長さを理由にして「自分は人を見る目がある。人を見抜ける。」などと宣伝する人がいますが、正直なところ滑稽に思えてしまいます。
何千人の応募者と面接し、その合否を決めてきたとしても、その応募者がその後どのようなキャリアを歩み、どのようなレベルにまで到達したかをウォッチしている人はいません。合格・採用とした人が、その後、自社でどのような能力を発揮し、どのような業績を残したかをしっかりとトレースしている人もまずいません。その合否の判断・根拠が正しかったのかどうかを検証してもいないのに、「見る目がある。人を見抜ける」とは言えません。
人事を長くやっている人が、人を見抜く力があるなら、メンタルヘルス不全者がこんなに多く出るはずはありません。各々の特性と仕事・職場の状況を見極め、その言動から異常を察知し、事前に対策を講じることができるはずです。同じように、人を見抜けるのなら、誰を昇進させ、誰をどのような部署に異動させ、各々がどのような役割を担ってもらうかについて、失敗するはずがありません。ところが実際には、昇進や異動がいつもうまくいっているわけではありません。人事経験の豊富な人がやっているから、まだマシなのではないかと思われるかもしれませんが、真面目に一人一人のことを考えて取り組むのなら、誰がやってもそう大差はないように思われます。
人事経験と人を見る目は、まったく関係がありません。せいぜい、うまく質問をして相手の言いたいことを引き出したり、汲み取ったりする力、感じた印象をちゃんと言葉にして表現する力があるくらいでしょう。だいたい、30分そこそこの会話でどんなタイプかが見抜けるとか、将来どれくらいの業績を残すか、どれくらい大きく成長するかが分かってしまうなんて、それぞれが懸命に描こうとしている人生ストーリーを馬鹿にした話です。また、人間とは何かを追求する学問を、すべて否定してしまうような話です。
経験を積めば積むほど、分かってくることもあります。一方で、経験すればするほど迷いが生じ、深さが分かり、いかに自分が分かっていないかが分かるようなことがあります。目の前にいる人を理解するというのは、明らかに後者に属します。従って本来は、人事経験が豊富であればあるほど、「人を見る目には自信がない」「人間なんて、結局のところ分からない」と感じるものだろうと思います。見る目に自信を持つ人と、見る目に自信がないと感じている人との違いは、他人に対する謙虚さの違いとも言えるでしょう。
人事だけではありません。部下のタイプ、部下の実力、部下の将来を分かってしまったようなことを言う人が少なくありません。そんな発言を聞くとき、人間というものがちゃんと分かっていないのではないか、あるいは部下の人生に対する謙虚さが足りないのではないかと思います。いやいや、オレの部下を見る目は相当で、これまでも結構当たってきたと反論される方がおられるでしょう。しかしそれは、見る目があるのでも、当たったのでもありません。部下を自分が判断したようにしか見ていないだけであり、部下に自分が決めたように振る舞うように(無意識に)強いてしまった結果であろうと思います。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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