私は「老いの工学研究所」というNPOで高齢者や高齢社会の研究を行っていますが、先月のアンケート調査(20歳から86歳までの851人が回答)の結果が、なかなか興味深かったのでご紹介しようと思います。
横軸は、「高齢者は健康面で弱者だと思いますか?」という質問に対する回答です。縦軸は、その回答ごとに「経済的に弱者か」「能力的に弱者か」という質問に対して、肯定した人(「そうだ」「ややそうだ」の合計)の割合を表しています。
ここから、健康面で高齢者を弱者だと考える人ほど、経済的にも能力的にも弱者だとする傾向が顕著であることが分かります。ところが実際には、高齢者は、記憶力や計算力(流動性知能)は衰えるが、知識や経験に基づく判断力や対応力(結晶性知能)は維持・向上が可能であるとされていますし、労働による収入は減るものの資産や年金などで経済的余裕のある人は多く、「高齢になると、あらゆる面で衰えていく」という理解は間違っています。
障害者についても、視覚や聴覚に問題がある、手足が不自由だというだけで、他の面を見ることなく弱者としてしまっています。かく言う私がそうでした。昔、勤めていた会社で人事課長をしていた頃、聴覚障害を持つ人を採用したときのこと。最初はシンプルな作業から始めてもらおうと、給与計算チームで変更届の入力をしてもらいました。そこで驚いたのが、前の担当者に比べて、半分ほどの日にちで入力を終えてしまうことでした。皆さんは、なぜだと思いますか。
コンピュータに慣れていて、入力のスピードが早いのではありません。朝早くから、夜遅くまでやっていたわけではありません。正解は、彼女がずっと同じスピードで入力をしていたからです。健常者なら、他の人の会話や雑音が入ってきたり、単調な作業に飽きたりして効率が落ちていきますが、彼女は耳が聞こえないこともあって、雑音が入って来ず、ずっと集中力を維持できていたのです。他にも彼女の優れた点はありましたが、『聞こえない』ということだって、良さとなりえるのです。
もちろん、高齢者や障害者に限った話ではありません。私たちはそもそも、他人を多面的に見るのが苦手なのだと思います。人には様々な面があって、誰にでも得意不得意、良い点やそうでない点があるわけですが、どうも一面的に見てしまい、それをもって「この人はこうだ」と認識してしまうようなところがあります。
多様性が重要であるとの認識が広まり、女性や外国人の活用・登用が注目されていますが、その前に(それと同時に)、今、目の前にいる人の多様性に気付かねばならないということだろうと思います。高齢者や障害者を見たままに「弱者だ」としたり、男性はこう、女性はこうと考えたり、周囲の人たちをちょっとした出来事だけで決めつけてしまったり・・・。そんな、誰にでもある癖をなくそうと努力しなければなりません。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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