英国、ドイツなど相次いで法人減税
安倍内閣が今年6月に決める「新・成長戦略」の目玉として法人税引き下げを盛り込むかが焦点となっている。日本企業が国際競争力を取り戻すためには、法人税の引き下げは不可欠であり、その方針を明確に打ち出せるかどうか、まさにアベノミクスの真価が問われている。
ここでなぜ法人税の引き下げが重要なのか、改めておさらいしてみよう。日本の法人税の基本税率は現在25.5%で、これに法人事業税など地方税を合わせた実効税率(法人が実際に負担する税の割合)は35.64%(東京都の場合)となっている。
主要国の実効税率は、米国40.75%(カリフォルニア州の場合)、フランス33.33%、ドイツ29.55%(全独平均)、イギリス23%などとなっており、日本は米国に次いで世界で二番目に法人の税負担が高い国だ。新興国はさらに低く、中国25%、韓国24.2%(ソウル)、シンガポール17%などとなっている。
新興国は国内企業の成長を助けるとともに外国企業を誘致しやすくするため法人税率を低くしているのが一般的だが、最近の特徴は先進国も相次いで引き下げに動いていることだ。
イギリスは2008年までは30%だったが、その後はほぼ毎年、1~2%ずつ引き下げており、2015年4月には21%にする方針だ。ドイツは2000年代初頭までは法人税の基本税率が35%だったが、2000年代にまず25%に、次いで15%へと一気に引き下げた。米国のオバマ大統領も法人税の税率引き下げの方針を表明している。
法人減税で経済活性化に成功したドイツ
このように今や世界は法人税引き下げ競争の様相を呈している。その背景にあるのはグローバル競争の激化だ。グローバル競争とは、たとえて言うなら各国の企業が「グローバル市場」という一つの土俵に上がって相撲を取るようなもの。その際、税負担の重い国の力士(つまり企業)は重い荷物を背負わされてたたかわなかればならないわけで、相撲をとるのに不利なことは明白だ。
だから各国政府は荷物を軽くする、つまり自国企業がグローバル市場で勝ち抜くために法人税の負担を軽くし国際競争力を高めようと動いているのである。日本がこれに遅れをとるわけにはいかない。法人税減税はアベノミクスの成長戦略の重要な柱となるべきものなのである。
法人税引き下げについては、ドイツの例が参考となる。前述のように、ドイツは2000年代初頭までは法人税の基本税率が35%、実効税率は51%もあったが、10年足らずの間に税率を15%に、実効税率も30%を切る水準まで引き下げた。これほどドラスティックな税制改革は聞いたことがない。
この背景には当時のドイツ経済の低迷があった。1991年の東西ドイツの統一以来、開発の遅れていた旧東ドイツへのインフラ投資や経済支援などが負担となり、90年代後半から経済が低迷していた。そこで経済活性化のために思い切った法人減税に踏み切ったのだった。
その結果、ドイツの企業は税負担が軽くなり、ドイツ経済は再び強さを取り戻した。最近の欧州経済危機の中にあって、ドイツが南欧諸国支援の中心的役割を果たせたのも、この時の税制改革による経済活性化があったからこそ、なのである。
「経済成長と財政再建の両立」にも貢献
そのうえ、税率を引き下げたにもかかわらず、税収は増加したのである。ある試算によると、ドイツの法人税収は1995年から2012年の期間で5.6%増加している。法人税を含む税収全体でみると、2005年以降に大幅に増加するようになり、2013年は過去最高額を記録している。
このように、法人税の引き下げは経済活性化に効果があり持続的な経済成長につながるだけでなく、財政再建にもむしろ貢献する可能性が高いのである。現在の日本は「経済成長と財政再建の両立」が必要だが、法人税減税はその政策的課題にこたえるうえでも、重要なカギを握っていると言える。
安倍首相はかねて法人税引き下げに強い意欲を示しており、最近の報道によると、6月にまとめる「骨太の方針」に法人減税を明記するよう指示したという。これまで法人減税に慎重だった政府や自民党の税制調査会などの議論も、減税容認の流れができつつあるように見受けられる。
後は、減税分の財源をどうするか、そして引き下げの率や時期をどうするかが焦点になりそうだ。ここはドイツほどではないにしても、大胆な方針を期待したい。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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