前回、デジタルの実例をご紹介しましたが、今回も別の事例をご紹介します。ビジネスの現場に新しいデバイスを導入する際にありがちな話です。
ある生命保険会社で、営業所の外交員にタブレットを持たせて業務の効率化を図ろうと言うことになりました。実はこの会社、以前にもタブレットを導入したことがあるのですが、最終的に誰も使わなくなり、タブレットは営業所の棚に放置された、という苦い経験があります。
再度の挑戦のために、新進気鋭の開発会社に依頼することにしました。その会社が打ち出した方針が「ユーザーのペルソナを徹底的に作る」そして「全員を対象にはしない」ということでした。どういうことでしょうか?
ペルソナとは、「ユーザー像」のことです。開発会社はモデルとなる営業所で外交員の行動を観察し、3種類のペルソナを作りました。1つめは「パワーユーザー」。ITに詳しく、仕事用と個人用のスマホを使い分けられるような人です。営業所の2割程度の人がこれに該当します。次が「普通のユーザー」で、スマホは持っているが、よく使うのはLINEとブラウザーくらいという人達で、これは全体の6割くらい。そして最後が、ガラケーしか持っていない人で残りの2割です。
このうち、開発会社はまずパワーユーザーの人に、タブレットのアプリにどのような機能を入れて欲しいのかを聞きました。普通のユーザーに聞いてもあまりアイデアは出てこないですし、残りの2割の人には(言い方は悪いですが)聞くだけ無駄です。ついでに言えば、この最後の2割の人は、どのようなアプリを作ってもタブレットを使ってはもらえません。最初からこの層は対象にしないという決断を下し、経営層にも了承をとったのです。
こうしてできたアプリは、2割のパワーユーザーの要望に沿ったものになりました。当然パワーユーザーの人達の満足度は高く、改善の要望もどんどん出てくるため、アプリはさらに使いやすくなります。それを傍で見ていた一般ユーザーの人達も徐々にタブレットを使うようになっているということです。残りの2割の人達は相変わらずですが、営業所の8割が使うようになれば、徐々に興味を持ってもらえるのではないかと期待しています。
いかがでしょうか? 今回の事例のキモは、「最初は無理に全員が使わなくても良い」という割り切りです。最初は一部の人だけでも、その人達が便利に使い始めることで、じわじわと利用が広がって行き、長い時間の後に全体のリテラシーが上がることを待つのです。
そんなに時間はかけていられない、という意見もあるでしょうが、人の行動を変えるにはどうしても時間がかかります。変革にじっくり取り組むという考え方は大切ですし、DXを進める際にも参考になるのではないでしょうか。
大越章司おおこししょうじ
株式会社アプライド・マーケティング 代表取締役
外資系/国産、ハードウェア/ソフトウェアと、幅広い業種/技術分野で営業/マーケティングを経験。現在は独立してIT企業のマーケティングをお手伝いしています。 様々な業種/技術を経験しているため、IT技…
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