長時間労働の是正は、古くからの課題。その昔は、欧米に比べて日本人は働き過ぎだという観点から、年間労働時間1800時間の達成を目指した取り組みが行われました。20年以上かかったと思いますが、現在、ようやくその水準の労働時間になっています。ただし、この数値は実態とかい離があるようで、労働環境の比較的良い大企業を中心にとられた数値だ、残業時間として会社に申告されていない時間(サービス残業)が相当にあるはずだ、といった指摘があります。これらの指摘は恐らく当たっていて、そうでなければ、ワークライフバランスが注目され、労働時間の短縮が今さら課題になるはずがありません。また、ブラック企業という言葉が流行ることもなかったでしょう。居酒屋チェーンや牛丼チェーンのひどい勤務実態が報道されましたが、あれらの企業だけであるはずがありません。
長時間労働がなかなか解消しない理由はいくつかありますが、もっとも大きなのは、そもそも日本の労働法が「労働時間に対応した賃金を支払うこと」を定めていることです。一部の職種や管理職を除けば、働いた時間分の賃金を支払うのが原則。ということは、長い時間働くほど給与が上がります。逆に、労働時間の短縮は、給与が減ることを意味します。残業を減らすと、給与が減る仕組みが法律によって定められているのですから、なかなか労働時間が減らないのは当然と言えるでしょう。残業代を定額にできる職種を増やそうという「ホワイトカラーエグゼンプション」が、「残業代ゼロ法案」と呼びかえられて労働側の反対に合うのが象徴的です。
ワークライフバランスは、広く知られる言葉になりました。なので、労働時間の短縮は多くの人が望ましいと思うようになっていますが、それでは給与が減ってしまうという現実があります。「労働時間に対応した賃金を支払うこと」を定めた法と、ワークライフバランスはこの点で矛盾していることを見逃してはいけません。
時間対応型の賃金制度は、男性向きの仕組みでもあります。日本では、女性が家事や育児、介護などの役割を担うのが一般的ですから、女性は時間的な制約が大きい。男性はいくらでも働けるが、女性は早く帰らないといけないのであれば、女性の給与は男性より低くなりますし、長時間働くほうが立派だと評価されるのであれば、女性の昇進・昇格が厳しくなるのも当然です。その一方で、「女性の活用、登用」が注目されています。重要なテーマではありますが、長時間労働が常態化したままの職場ではそれは難しいでしょう。長時間労働の原因となっている時間対応型の賃金制度は、「女性の活用、登用」と矛盾しているというわけです。
女性だけでなく、ダイバーシティ(多様性の実現)という観点でも、長時間労働の原因となっている時間対応型の賃金制度がネックとなります。職務(自分の役割と出すべき成果)をしっかり契約し、それさえやれば仕事は終了という価値観の外国人が、長時間労働が常態化した職場に定着するのは難しいでしょうし、高齢者の活用、労働観の異なる若手の活躍も期待薄だと思います。
昨今の雇用に関する重要テーマである「ワークライフバランス」「女性の活用・登用」「ダイバーシティ」は、いずれも積極的に推進すべきですが、長時間労働やその原因となっている「時間対応型の賃金制度」との矛盾をはらんでいます。つまり、「時間対応型の賃金制度」を変えなければ実現しないテーマと言えます。ここに着目し、法改正をきっかけとして、働き方の変革を図ることが重要なのです。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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