ここで何度も申し上げて恐縮ですが、私は現在、NPO法人の「老いの工学研究所」に所属して研究活動を行っています。そこで先月、40~50歳代中心の201名に行ったアンケート調査で、非常に興味深い結果が出ましたので、ご紹介したいと思います。
下表を見てください。
日常の生活姿勢や生活実感について訊いたのが、左の行にある「他の世代と、積極的に交流している」~「振る舞いや言動に気をつけている」までの10項目。これら10項目について、「自分の死をしっかり意識していますか?」という問いに「そうだ」「ややそうだ」と回答した人と、「そうでない」「ややそうでない」と回答した人とでは、どう違うかを比べた表です。(差の大きかった順に並べています)
例えば、自分の死を意識している人の80%が、「他の世代と積極的に交流している」のに対し、自分の死を意識していない人は59%に留まった、ということです。
10項目中、8項目で死を意識している人の割合が上回っており、全体に前向きで、周囲と積極的に、調和的に関わっている様子が伺えます。「年齢なりに成長、成熟している」という項目も10ポイントの差があって、死を意識している人のほうが、年相応の成長実感を持っているということです。とても大雑把に言えば、死を意識している人のほうが、充実しているし、立派で格好よく生きている感じがします。
なぜ、こうなるのでしょうか。いつ死ぬか分からないという感覚を持っているので、今を悔いなく生きようとしているのかもしれません。死を意識できるというのは、ある意味で大人の証拠とも言えるでしょうから、大人として社会性を発揮し、客観的に他者や自分を見つめることができる、そんな行動の結果かもしれません。死への意識とは自分の限界を知ることであり、謙虚さにつながっていて、それが他者に対する優れた言動を生んでいるのかもしれません。非常に難しく、もっと深い学びや研究を要することは間違いありませんが、いずれにしても、「死を意識すること」が何かとても良い効果を生むのでないかという気がするわけです。
考えてみれば、死を意識するような機会は極端に減りました。戦時中は、全員が死を意識せざるを得なかったでしょう。大家族の時代は、年寄りと一緒に暮らしていましたから、愛する祖父母の死に立ち会うのは普通だったでしょうし、地域の結びつきも強かったので、よく知る老人が亡くなって葬儀の手伝いをするような機会もしょっちゅうだったはずです。そのような機会が、都市化、核家族化によって失われ、死に立ち会い、死体を見ながら死について深く考えるようなことがなくなってしまいました。大災害で多くの人の命が失わるようなことはありますが、それも死を考えるきっかけというよりは、「絆」といったきれいな言葉によって違う視点に変わってしまいます。私たちは、報道で触れる死も自分に引き付けて考えることが出来なくなってしまったように思えます。
今の社会について、あるいは人々の言動について、活気ある状況だ、皆が充実している、互いに前向きに評価し合える、そう考える人は少ないでしょう。そうなってしまっている理由は、死が身近でなくなってしまったことと無関係ではないような感じがします。もちろん、その因果関係を明確に述べることはできないのですが・・・。
もう一つ、データをご紹介しましょう。
この調査では、現在の幸福度を10点満点で自己採点していただきました。全体の平均点が7.45点だったので、8点と7点を平均的な幸福度の人とし、それより上の10点と9点をつけた人の割合を調べました。それが、上表です。
自分の死を意識している人の32%が、幸福度を10点または9点としたのに対して、意識してない人は、16%となりました。倍です。皆さんは、これをどのように考えますか。やっぱり、自分の死をしっかり意識すべきだと思われませんか?
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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