世界中で戦争がいまだ続いている中、紛争という傷跡を背負ってきた国々が世界にはたくさん存在しています。ロシア南部に位置するチェチェン共和国。この国ではロシアからの独立を目指して二度の大きな紛争に直面しました。いかなる戦争であっても犠牲になるのはいつも子供たち。この悲しい現実はチェチェンの子供たちにもふりかかっていました。
アジアとヨーロッパの接点となるトルコの北東部に位置するグルジアという国にはチェチェン共和国から逃れてきた避難民の方々が多数暮らしています。グルジアとチェチェン両国の国境に面している渓谷では多数のチェチェン人の方々が何世代も暮らしを営み、イスラム教徒としての規律、山岳民族としての生活風習を守っています。山の民として一年のうち数ヶ月は山での暮らしを実際に今でもおくっていました。
チェチェン人としての文化や慣習への敬意と深みは祖父から父へ、そして子供たちへ引き継がれています。実際に渓谷の山々に入るとチェチェン人の若者たち、子供たちが自分たちだけで山の暮らしをおくっている光景に何度も出会いました。水や食料の確保、馬の操り方、気候の見極め、テントの建て方、種火の保管方法などリアルなサバイバル技術を習得し、それを決して派手に見せるのではなく、日常のものとして誰しもが体得していました。 目を見張るのは手綱を使わずに馬を乗りこなすことができること、そして 子供たち同士で山に入った折、限られた物資だけで何週間も時間を過ごすことができることでありました。ここでは地域の方々誰しもが顔見知りであり、親類としてのつながりがあり、チェチェン人同志で結婚、子孫を残していくことはいまだ変わることのない風習でありました。
山の民の暮らしのシンプルさと深みを感じるチェチェン人の日常。山の中で長い時間を過ごすチェチェンの子供たちの姿は、自信と誇りに満ち溢れていました。チェチェンの子供たちに畏敬の念を覚える出会いがここにありました。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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