政府観光局がこのほど発表した2014年の訪日外国人数は前年比29%増の1341万人に達し、過去最高を記録した。訪日外国人数は2013年に初めて1000万人の大台に乗ったばかりだが、2014年の増加ぶりには目を見張るものがある。政府は「東京五輪の開かれる2020年までに2000万人」という目標を掲げているが、このペースなら軽く達成できそうな勢いだ。
訪日外国人数の推移
さらに驚くのは、訪日外国人が日本滞在中に買い物や宿泊、食事などに消費した金額が2兆円を超えたことである。これは前年より40%以上の伸びとなっており、人数の増加以上に消費額が増えていることを示している。2兆円は名目GDPの0.4%に相当する金額であり、ちょっとした景気対策並みの規模である。2014年は消費増税の影響で低迷が続いただけに、外国人の消費が日本の景気を支えたと言っても過言ではないほどだ。
これほど訪日外国人が増加している理由は主に3つ。第1は、政府や民間が外国人観光客の誘致・受け入れに力を入れていること。ここ2~3年、政府は中国や東南アジアなどからのビザの条件を緩和したり、免税対象品を拡大するなどを実施してきた。大手百貨店も免税店を都心にも設置するなどに取り組んできた。旅行業界も海外向けのキャンペーンなど宣伝誘致活動を展開している。
第2は円安効果だ。ここ2年の円安の進行で、外国人にとっては従来より割安で日本に旅行ができるようになったメリットは大きい。
そして最も重要なのが第3の理由。それは、海外で日本に対する関心、あるいは評価が高まっていることである。海外ではアニメ、スシなどの和食がブームのようになっているが、それにとどまらず、日本の文化や伝統の奥深さ、それをベースに培われてきた技術力、おもてなし精神やマナー、治安の良さなど、日本という国と日本人の姿が外国人をひきつけている。これがあるからこそ、第1の理由も第2の理由も効果を発揮できるのだ。
こうして日本を訪れる外国人が2020年に向けて一段と増えていることが予想され、それによる経済効果が長期にわたって持続的に拡大していくことが期待される。
しかも重要なことは、それが消費額で表される経済効果だけではないということだ。外国人に限らないが、観光客が増えることに対応して、あるいは増やそうとして、各地の観光地が観光客受け入れのために地域の交通インフラを整備したり、商店や宿泊施設を中心とする町づくり・都市整備を進めたりすることで、地域の活性化につながりうる。
地元の観光業者だけでなく、農林水産業、地場産業、サービス業、建設業など業種の垣根を越えた協力・連携の可能性も広がるだろう。安倍政権が掲げる地方創生を進めるうえでも、観光はその軸になる可能性を持っている。
外国人観光客の増加は、日本のグローバル化を促すことにもなる。外国人が気持ちよく滞在できるように、日本人が気を配る場面が増え、日常生活の中で「外国」を意識する場面が増えていく。そうした経験を通じて、とかく内向きになりがちだった日本人が広く海外に目を向けるようになるだろう。また日本の観光地についての情報がより多く海外に紹介されて、それがさらなる観光客の増加や地元産品の輸出にもつながれば、経済効果を拡大させることになり、海外で日本の評価が一段と高まることにもなる。
ただ課題もある。講演などで地方を訪れる機会が多いのだが、せっかく優れた観光資源を持ちながら、十分生かし切れていないケースが少なくない。あるいは、一定地域内に複数の観光スポットがあるのだが、それらがバラバラで有効に連携していないなど、「工夫の余地がありそうなのに、もったいない」と感じることがある。外国人観光客が増えれば、彼らが「もう一度来たい」と思えるような地域の整備がますます重要になる。そしてそのことが、前述のように地域の活性化につながりうるのである。
このように観光は日本の有力な成長産業になる可能性を持っている。大げさに言えば、無限の可能性を持っている。これはまさに成長戦略を支える柱でもあり、東京五輪の経済効果を最大限に生かす道でもある。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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