ロシア民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反政府武装蜂起。約四半世紀に渡り強権体制を固めてきたプーチン大統領にとって政権基盤を揺るがす初の軍事クーデター未遂事件となりました。ウクライナ軍による大規模反転攻勢が加速する中での動乱はロシア軍事侵攻を不安定化させる要因を十二分に孕んでいます。プリゴジン氏は元々外食産業で財をなした新興財閥通称“オリガルヒ”の一人。これまでプーチン大統領や政府高官への外食産業でのもてなしが評価され存在力を強めてきました。通称“プーチンのシェフ”と呼ばれる所以であります。2014年に民間軍事会社ワグネルを創設。ロシアでは違法の扱いとなっている傭兵を囲い込んだ影の戦闘集団として、これまで中東のシリアや北アフリカのリビアで軍事支援を担ってきました。2016年のアメリカ大統領選挙ではロシアに優位な存在であった当時のトランプ大統領選出のための情報工作に携わったことも確認されています。ワグネルとはプーチン大統領にとってまさに汚れ仕事を任せられる存在。外交戦略の暗部を知り尽くしてきた共闘の仲でもありました。
風向きを変えた引き金はウクライナ東部ドネツク州要衝バフムートの戦闘激化にあります。当時ロシア軍前線部隊の進攻がままならず兵力損失が拡大。傭兵部隊のワグネルが戦闘の舵取りを引き継ぎ、一部の地域を制圧する実績を打ちたてました。面子を潰されたロシア軍本隊は発信力を強めるワグネルに反発。孤軍奮闘するワグネルに対し軍事後方支援を遮断する圧力を突きつけました。兵力補給を断たれたワグネルはウクライナ軍の攻撃で約2万人規模の兵力を喪失。犠牲者拡大の要因はワグネルを切り捨てたロシア軍のショイグ国防相とゲラシモフ総参謀長の陰謀にあると暴露しました。プーチン大統領にとってはまさに飼い犬に噛まれた状態。ワグネルの戦闘実績を認めながらもロシア政府に対する裏切り者と断罪しました。
軍事クーデターが未遂に終わった背景には、プリゴジン氏の武装蜂起を支持するロシア軍内部の関係者支援が広がらなかったことにあります。ロシア政府はウクライナ侵攻の副司令官であったスロビキン氏をワグネルの動向に関わった疑惑で拘束しました。ロシア中枢部にクーデターに関与した人物が存在していたことはプーチン政権の基盤が揺らぎ始めているサインであります。ロシア内部の混乱がウクライナ戦争戦闘停止につながることもゼロではない事件であったと言えます。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
人権・福祉|人気記事 TOP5
ロシア軍事侵攻から約100日
渡部陽一のコラム 「世界の戦場から平和を考える」
日本語を学ぶ学生たち/夢は日本企業に就職すること
渡部陽一のコラム 「世界の戦場から平和を考える」
人権を考える、障害をもつ人の自立は自分達から
河合純一のコラム 「夢は実現してこそ夢」
講演・セミナーの
ご相談は無料です。
業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。