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2015年04月24日

職場に”イチロー”を作ってはいけない

今シーズンの初ヒットを放ったイチロー選手が、試合後、記者に感想を尋ねられて、「想像できる範囲だと思いますよ。僕の気持ちなんて。凡人でも想像できる。だから言う必要はないんじゃないの」と答えたそうです。”凡人でも”といった上から目線、ただの野球の専門家に過ぎないという事実に対する自覚のなさが伝わる、まさにイチロー選手らしい発言です。この発言をどう捉えるかは人によるでしょうが、考えてみれば、仮に政治家が”凡人でも分かる”などと言ったら、相当なバッシングを受けるでしょうし、政治家でなくても、反発を想像した上でそんな物言いは控えるのが普通だろうと私には思えます。

それはそれとして、この件で興味深かったのは、読売や日経が、”凡人でも”の部分を割愛して書いていたこと。憶測に過ぎませんが、「そのまま書いてしまうと、イチローさんに批判が集まるかもしれない。そうなると、”なぜ、そのまま書くのか!”とイチローさんに怒られる、嫌われる可能性がある。それはマズイので、無難に書いておこう。」という心理が働いたのだと思います。嫌われたら仕事に影響するから、記者は遠慮し、忖度し、媚びへつらう。そんな態度に比例するように、イチロー選手は尊大、傲慢になっていく。そのような構図が見え隠れします。

イチロー選手が何をどう言おうが、あるいはその本音や真の姿が正確に伝わらない、誤って伝わることくらいは、世の中に何の影響もないので、どうでもよいのですが、もし、政治家や大企業経営者と記者の関係がこのようなものだったらと考えると、これは軽い問題ではなくなります。このような不健全な関係は、なくさねばなりません。

職場においても、同じようなことが言えます。相手を恐れ、本意ではないが、相手の気に入るように仕事を進める。そのような仕事ぶりが横行するような職場が、優れた成果を上げることは難しいでしょう。部下が上司を恐れる、管理職が社長を恐れるなど、下が上を恐れるケースだけではありません。成績を上げ続けているメンバー、切れ者の論者、うるさ型のベテランなどに対して、言いたいことがあっても言えない上司というのも同じで、相手の機嫌を損ねないように指示・指導が甘くなってしまいがちです。そうなってしまうと、本人が何か勘違いをして徐々に尊大、傲慢になっていってしまうことがあります。すごく出来る、すごい成績を残すという面のイチローは何人いても構いませんが、尊大・傲慢のイチローが出てくると組織では面倒なことになります。

成果を出しても、知識や技術があっても、どれだけ仕事ができてもそれだけのこと。過大に評価されるべきではありません。なぜなら、人間の価値とはまったく関係がないからです。また、上げるべき成果、得るべき知識・技術はそれ以上にいくらでもあって、そのレベルにはまだまだ到達していないからです。そんな当たり前のことも分からずに、営業成績がトップだからといって肩で風を切って歩くような人間は、野球ができるだけで世の中が全部わかったような顔をして、上から目線で恥ずかしげもなく話す人間と同じ。どれだけのことを残そうが、どれだけのことができようが、人として当然の謙虚さ、他者へのリスペクトができる人を育てていかねばなりません。そういう人間教育も視野に入れて人材育成に当たる会社が、最終的には強いのではないかと考えます。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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