西アフリカにあるニジュールで政権転覆を狙った軍事クーデターが発生しました。複雑に国々が入り組む西アフリカ一帯は日本から地理的に距離がありどうしても現状に触れる機会が少なくなっています。それゆえ今回は軍事クーデターが勃発したニジェールという国について触れていきたいと思います。
ニジェールは1960年8月に旧宗主国フランスから独立しました。サハラ砂漠の南側サヘル地域で唯一の民主国家であり国土の約4分の3が砂漠に覆われています。ウラン鉱山が有名で日本のウラン主要輸入国の一つ。1960年の独立以降、貧困、飢餓の深刻な状況が続いており、世界最貧国の一つと認識されています。ニジェールでは政情不安が続いたことで武装蜂起が多発してきました。今回の事件で6度目のクーデターとなります。ニジェール国民一人当たりのGDP国民総生産は594ドル。日本円で約8万3000円。(2021年度)。
クーデターの混乱が繰り返されてきた中、2021年にニジェール初の民主選挙で選ばれたのが監禁されたバズム大統領でした。2010年から2012年の中東民主化運動アラブの春以降、北アフリカのリビアやアルジェリア方面からの過激派や武装勢力、武器の流入が拡大。2020年から2022年にかけてニジェールの隣国のマリ共和国やブルキナファソ、近隣のギニアでも軍事クーデターが勃発してきました。過激派連鎖拡大の背景には地域一帯の貧困と飢餓の問題が挙げられます。こうした混乱の続く西アフリカ一帯で民主国家としての政治体制を掲げたのがバズム大統領であり、民主選挙を経ての大統領誕生にフランスはもちろん、資源問題を絡めて西アフリカ地域との繋がりを強めたいアメリカは歓迎。ニジェールには実際にアメリカ軍も駐留してきました。
同時に急激な民主化により資源利益や利権争奪から分離させられた市民の生活基盤が復興を果たせず、貧困の怒りが武力を使ったクーデターにつながっていきます。民主化を掲げながら、国民生活の現実は貧困と格差に疲弊。植民地主義に苦しんだニジェールの政情不安は、フランスをはじめとした欧米諸国による搾取が原因であると反植民地主義のうねりが高まっていきました。西側諸国と繋がりを唯一持ってきたニジェールが西アフリカのクーデターベルトに飲み込まれてしまう状況に陥っています。西アフリカ情勢への注視が必要です。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…