新年早々に凄いニュースが飛び込んできました。ChatGPTを開発した米OpenAIのサム・アルトマンCEOが、数兆ドル(数百兆円)を調達して世界の半導体生産能力を拡大する計画を立てているのだそうです。金額の大きさに驚きますが、そこまでして半導体の生産能力を拡大しなければならない理由は何なのでしょうか?
生成AIのモデルの学習や維持には、膨大なコンピューティングパワーが必要なことはこれまでこのコラムでも取り上げてきました。生成AI以前のAIでも膨大な演算が必要でしたが、生成AIはモデルの大きさが以前のAIの100倍〜1000倍以上あり、計算量もそれに比例して増えることになります。コンピュータの性能が向上し、クラウドが普及したことで、AI研究は一気に加速しましたが、これだけの規模になると、クラウド上のサーバーを総動員しても足りない状況になりかねませんし、そもそもそんなコストもかけられません。
そこで注目されているのが、GPUなのです。GPUはグラフィックスプロセッシングユニットのことで、元々はゲーム機などの3次元グラフィックスを高速に処理するために開発されました。3次元ということで、CADやCAMなどでも使われています。このGPUが、AIの処理に向いているということがわかったのです。普通のサーバーを使うよりも高速かつ安価にAIを処理できます。そのため、今は世界中でGPUの争奪戦が行われています。
しかし、GPUは元々ニッチな市場を相手にしていたため、いきなり需要が増えてもすぐに追いつくことができません。現在AI向けGPUは、ほぼすべてがアメリカのエヌビディアという会社のものであり、他には数社が細々と供給しているだけです。急激に高まる需要に、供給がまったく追いついていないのです。(エヌビディアの業績は急拡大しており、株価は昨年3倍になり、現在時価総額はアマゾンに迫っています)12月のコラムで、「AIモデルの維持には莫大なコストがかかるので、サービスは今後有償化されるだろう」と書きましたが、このままだと、いくらお金を積んでもAIを利用できない、ということになりかねません。
アルトマンCEOはこれまでも「十分なサービスを提供するにはGPUが不足している」と発言するなど、GPUの不足を何度もアピールしていました。しかしGPU不足は深刻になる一方です。そこで、自らが乗り出して数十の半導体工場を作る、そのための数百兆円ということです。スケールの大きさに驚きますが、それだけ危機感が強いということも表しています。今後、AIを使いたくても使えない、あるいは利用料金がものすごく高額になる可能性が高くなってきました。
大越章司おおこししょうじ
株式会社アプライド・マーケティング 代表取締役
外資系/国産、ハードウェア/ソフトウェアと、幅広い業種/技術分野で営業/マーケティングを経験。現在は独立してIT企業のマーケティングをお手伝いしています。 様々な業種/技術を経験しているため、IT技…
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