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2024年05月17日

グリコのトラブルから考える、DXのむずかしさ

経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」まであと1年を切った今、DXの推進は喫緊の課題です。DXが間に合っていない企業も多いと聞きますが、頑張って推進している企業もたくさんあります。

その一方で、DXを目指したものの逆に問題を起こしてしまうケースも出てきています。最近報じられたところでは、今年4月に行われた江崎グリコの基幹システム刷新がうまく行かず、すでに1ヶ月近くもチルド商品の出荷が停止しているということです。しかも、当初予定の1ヶ月では復旧の目処がたたず、さらに1ヶ月程度かかるという見通しが発表され、今年度の業績見通しも下方修正されるという前代未聞の事態に発展しています。

多額の予算と人手をかけたプロジェクトが、何故トラブルに見舞われてしまったのでしょうか?今回のトラブルの原因はまだ明らかではありませんが、ここまで深刻ではないにせよ、システム刷新にはリスクがつきものです。DXのためにシステム刷新が必要なのは当然ですが、過去にもいろいろトラブルはありました。過去の事例に学ぶことで、リスクを減らすことができます。

今回のシステム刷新は、旧来のシステムを最新のERPシステムに全面的に入れ替えるというものだそうです。ERPとは、「Enterprise Resorce Planning」の略で、企業の経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を最適化するための経営戦略であり、それを実現するためのソフトウェアプラットフォームです。今回採用されたのはドイツ製の「SAP」というシステムで、ERPの最大手であり、世界中の企業が採用している、信頼性の高いシステムです。

1990年代にSAP R/3が発売され、世界中でERPの導入ブームが起こりました。日本でも多くの企業がSAPを導入しましたが、導入に失敗、あるいは想定した効果を挙げられなかった企業が多かったと聞きます。理由はさまざまでしょうが、そのひとつに「テンプレートへの移行がうまく行かなかった」ことが挙げられます。
ERPパッケージは、生産、営業、会計などのシステムを統合して企業全体の効率を上げるためのパッケージですが、その際に「テンプレート」に沿って処理が行われます。このテンプレートは、世界中の企業が使っている業務プロセスを標準化してものです。つまり、このテンプレートを使うことで、自社独自のプロセスを世界標準のプロセスに移行させることができるのです。
しかし、日本では「顧客別」や「ケース別」など、きめ細かく業務プロセスが分かれているケースが多く、当時は現場がテンプレートの適用に消極的であったと言われます。その結果、テンプレートを現場に合わせて修正したり作り直したりしたため、導入費用もかさみ、その後のバージョンアップにも対応できず、全体的な効率もあがらなかったとされているのです。

この反省に基づき、その後のERP導入ではなるべく標準的なプロセスへの移行を伴うべき、という考え方が主流になっています。しかし、現場で長年使われてきたプロセスを変えるというのは大変な作業であることは間違いありません。それまでうまく動いていたプロセスをわざわざ変える必要があるのか、という疑問も、現場にはあるでしょう。そこを無理に移行させればトラブルになりますし、させなければ効果は上がりません。

今回のグリコのトラブルの原因はまだわかりませんが、DXの基本である「業務プロセスの見直し」がどのように行われたのか、世界標準への移行がどこまで行われ、無理はなかったのかなどについて、今後の推移を見守りたいと思います。

大越章司

大越章司

大越章司おおこししょうじ

株式会社アプライド・マーケティング 代表取締役

外資系/国産、ハードウェア/ソフトウェアと、幅広い業種/技術分野で営業/マーケティングを経験。現在は独立してIT企業のマーケティングをお手伝いしています。 様々な業種/技術を経験しているため、IT技…

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