第2回「職場におけるメンタルヘルスとコミュニケーション(1)」
職場におけるストレスの原因としてやはり上位に挙げられることが多いのは、人間関係やコミュニケーションの問題について、です。私は職場のメンタルヘルスとコミュニケーションを向上させる上で非常に効果的なことの一つに、テレワークという働き方を個々人のニーズにあわせて、より細かく、丁寧に活用させるということが大切なのではないか、と最近強く感じています。
一気に進んだテレワークは、コロナウィルス感染症が5類に移行し、今では各組織の判断により、それぞれ異なったスタイルで実施されています。完全出社型に戻した企業もあれば、完全テレワークの企業、週2~3回取り入れる企業など、対応は様々です。しかし、テレワークは働き方を大きく変えるものなので、その人のライフスタイルにも大きく影響し、所属する組織のテレワーク率が自分の希望と異なった場合、人によってはかなりダメージを受けてしまいます。
私もテレワークについては、様々な年代や職種の方からお話を伺うたびに、これほど人によってニーズや価値観が異なるのかと驚かされることが多いです。例えば同じ子育て世代の方でも、「子供が保育園や学校に行っている間は環境を変えたいので出勤し、職場の人とリアルな会話をしつつ仕事に取り組みたい」と希望される方もいれば「テレワーク勤務を最大限利用したい。子供が帰宅した時に家で迎えてあげられるだけでも自分も安心して仕事ができる」という方も。仕事に支障が出てしまう場合は別ですが、そうでないのならできるだけ個人のニーズに細かく対応して頂き、出社したい人は出社でき、在宅にしたい人は在宅にでき、その頻度も選べる環境がモチベーションや幸福度を高める鍵になるようです。
勿論、そうしたいけどそうできないという環境や職種の職場もあると思いますので、その場合はきちんと組織内で理解しあえていれば問題ないと思います。
注意したいのは上司の思い込みで方針が決まってしまっているケース。上司の方の体験や価値観を元に、なんとなく良かれと思ってその様に決めてしまったというケースは実はストレスを与えてしまっている場合もよくあります。特に上司の思い込みですれ違いが発生するのは(1)テレワークだとコミュニケーションを取る機会が減り、円満な人間関係の構築に良くないと考えているパターン、(2)若手を育てるためにはこうであるべきと決めてしまっているパターン、の2つが要注意です。
(1)については、テレワークは人間関係が希薄になり仕事が円滑に進まないのでは、と思っておられる方も多いですが、職場によっては人間関係が濃くなりすぎ、かえって円滑に進まないという場合もよくあります。ハラスメントなどの問題に発展しないまでも人の相性にはどうしても合う、合わないがありますので、必要以上に接触せず、良い意味でビジネスライクな関係でいた方が上手く回ることも多いです。これは上司の方からは見えていない人間関係というのもありますので、しっかりとテレワークの希望を実現させてあげることで、回避できるストレスもあることをお伝えしておきたいです。
(2)については、若手で仕事を覚えるまではテレワークは実施させない、もしくはある程度仕事を覚えたら早く自立させる上でもテレワークで良いのではないか、等の上司の方針が部下の希望とマッチしていなかった場合、上司が思っている以上に若手のストレスが大きいこともよくあります。
今の若い世代は、合理的で自分のスタイルをきちんと持っている方も多いので、働き方の要であるテレワークについての考え方は妥協できないという方も多く、若手の希望や希望する理由を丁寧に聞き取ることがとても大切です。
以前お話を伺った方で、「テレワークをできるだけうまく利用したい。企画を作る時に近くで指導を受けすぎるとどうしても思いきった提案ができなくなってしまう。かといって指導の必要を感じていないわけではなく、上司や先輩社員の意見は非常に勉強になるので大いに参考にしている。テレワークだと必要な時に必要なことだけを相談したり情報収集したりでき、集中力も高まる。テレワークの際に作成した企画の方が成果をあげているが、上司からはテレワークをなかなか理解してもらえない。」という意見をお持ちの方がいらっしゃいました。上司の方の反応は、自分の方針に従えないなんて自分勝手だ、生意気だ、となって理解しあうことができず、結局退職に至ってしまいました。しかし上司の方はとても期待していた若手社員だったので退職については非常にがっかりされ、もっとよく理由を聞けばよかった、一度希望通りのやり方を試してよく結果を見ればよかった、と後悔されていましたが、その時はもう後の祭りとなってしまいました。若手社員も仕事へのやりがいを感じており、上司も一生懸命育てようと考えたことが裏目に出てしまった訳なので、残念でとてももったいないと思いました。
この例とは逆に「雑談も含め勉強になるので、もっと出勤して先輩社員と話したいのに、テレワーク勤務が中心で難しい」という声もありました。上司の方は、若い世代はテレワークを好む人が多いと聞いてテレワーク勤務中心にしたとのことで、その様な意見があるのなら、とすぐ変更されました。今後は一般論ではなく、直接意見を聞いていかれるとのことで解決しました。
テレワークへの考え方こそ、より多様な価値観やお互いの理解を深めて頂く絶好の機会と考えて意見交換を重ね、細かく検討して頂くことが重要です。可能であればチーム全体で同じ方針ではなく、テレワークを取り入れる日数なども個々に検討して頂ければベストです。それぞれ環境や生活、年齢も違い、抱えている状況も異なるので、思い込みではなく丁寧に希望する理由や事情、仕事内容を検討した上で判断して頂くことが必要になってきます。
テレワークへの考え方を話しあうことで、仕事への価値観や得意、不得意、環境や悩んでいることなどを理解しあうことができるので、職場におけるメンタルヘルスや人間関係の向上につながります。上司の方は腕の見せどころではないでしょうか。是非、テレワークについて話しあってみてください。
渡邊洋子わたなべようこ
公認心理師
大学卒業後、株式会社博報堂に入社し、ラジオ局、新聞局で勤務。ラジオ局ではFM局の番組のスポンサー業務を、新聞局では読売新聞担当として新聞広告業務に携わる。その後出産のため退職し、専業主婦を経験。200…
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