戦国武将・直江兼続が、NHK大河ドラマ「天地人」で人気上昇中です。上杉謙信の甥・景勝に幼少のときから仕える側近でしたから、トップリーダーというより、「ナンバー2」の立場でした。しかし、戦国の世にその才能を発揮した兼続には、現代のリーダーシップに通じるヒントがたくさん隠されています。
兼続は、豊臣秀吉から「天下の政治を安心して預けられるのは、直江兼続、小早川隆景、堀直政など数人にすぎない」と目をつけられ、ヘッドハントされそうになります。これに対して、兼続は、「主君は、景勝公ただ一人」と言下に断っています。 それでも秀吉は諦め切れず、景勝を越後から会津90万石に移封し、景勝の家臣のまま兼続には隣接する出羽米沢30万石を与えて陪臣としました。
それも束の間、秀吉が亡くなり、2年後、天下分け目の関ヶ原合戦(1600年9月15日)が起こります。景勝・兼続主従は、秀吉の恩顧に報いようと「石田三成―真田昌幸・幸村父子」と連携して、徳川家康に敵対します。けれども三成が敗れたので、翌年、家康に降伏し、謝罪しています。そこで敗者・上杉家は、「まな板の鯉」となり、景勝・兼続を生かすも殺すも、家康の胸三寸ひとつに委ねられました。
「その時」、兼続は、かねてから親交のあった家康の重臣で「謀臣」とも言われた本多正信を頼り、知略を駆使して懸命に「主家の存続」を図ります。兼続は、若いときから持ち前の「交渉力」を発揮して、主君を輔けてきた豊富な経験がありました。上杉謙信亡き後、跡目相続をめぐって、景勝が謙信のもう一人の養子・景虎と争う「御館の乱」が起き、外から武田勝頼軍(背後の景虎の兄・上杉氏政軍)に攻められた際、勝頼と直談判し、謙信が春日山城に備蓄していた黄金の一部を贈呈して講和締結に成功、弱冠19歳でした。
その後、磨きがかけられた交渉力が、本領を発揮することになります。兼続の真摯な態度と熱意が、正信の心を動かし、兼続のために尽力します。その功が奏して、家康は、上杉家の「家名存続」を許します。この結果、景勝は会津領を没収され、兼続の領地・出羽米沢に移封され、上杉家の領地は120万石から4分の1の30万石に減らされました。敗軍の将たちが厳しく処分され領地没収されたことと比べれば、かなり甘い処分でした。
当時、高僧の誉れ高い南化玄興は、学問の弟子であった兼続のことを「利を見て義を聞かざる世の中に、利を捨て、義を取る人」と絶賛していました。実は、家康も南化和尚から兼続の評価を聞いており、一目を置いていたのです。上杉謙信直伝の「義」の精神を貫き、領民を慈しみ、「愛」の文字を冑の前立てに戦ってきた「武勇」優れた兼続を東北の雄・伊達正宗の押えに使おうとしたとも言われています。権謀術数うずまく世界で、インテリジェンスだけではなく、いわばその”人間力”が周囲に影響を与え、動かしていたともいえます。
それだけではありません。兼続は、領地が4分の1に減らされたにもかかわらず、「召し放ちせず」という方針を貫きました。「召し放ち」とは、いまで言う「リストラ」のことです。減封された大名家は、多数の浪人を出していました。上杉家でも「大規模なリストラ策」を唱える者もいました。これに対して、兼続は、「人こそが大名の資産である」として、家臣6000人(家族・属卒合わせて30000人)の解雇は行わず、知行(今日の給料)を3分の1とするにとどめました。この結果、ほとんどの家臣が上杉家に残り、大きな騒動も起こらなかったそうです。現代流に言えば、「ワークシェアリング」により、失業者を出さずにしのいだのです。そのうえ、米沢城下の周辺に大部分の藩士を「半農半士」として配置し、新田開墾、河川工事(「直江石堤」の建設、殖産興業・鉱山の開発を推進し、米沢藩を「実質50万石」に増強し、藩政の基盤を築いています。
「金融危機」の影響を受けて、正社員のリストラや派遣切りなどを行っている経営者が少なくない昨今、「トップは、いかにしてリーダーシップを発揮すべきか」について直江兼続から学ぶ点は、多々あるのではないでしょうか。
板垣英憲いたがきえいけん
政治経済評論家
元毎日新聞記者、政治経済評論家としての長いキャリアをベースに政財官界の裏の裏まで知り尽くした視点から鋭く分析。ユーモアのある分かり易い語り口は聴講者を飽きさせず大好評。
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