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2005年10月01日

未来

実に早い。いよいよ最終回である。
これまでサッカーが与えてくれた出会いを紹介してきたが、ラストはこれ。
今から出会うであろう未来について綴らせてもらう。

「趣味は?」と訊かれても、あえて言葉に出して言えるようなものはない。大概は「サッカーバカなんで、無趣味かな」と答える始末。でも、小さなコレクションならある。以前、スペインに住んでいた頃にマップ(地図)を少しだけ集めたことがあった。行く先々でツーリストインフォメーションに寄ってマップをもらう。それを捨てられずにとっておいたのだ。私は事故をして寝たきりの状態が長かったのだが、その時によく世界地図を眺めていた。

病室で母が買ってきてくれた世界地図を眺めながら、様々な風景を想った。ベッドの上で世界旅行を楽しませてもらったのだ。想像の翼は無限に広がり留まることを知らない。渡西前も居間に張ってあるスペイン地図を眺めながら期待に胸を膨らませ、思いを馳せていた。

……どんなところなんだろう。どんな人に出会えるんだろう。どんな生活が始まるんだろう。本場のサッカーにしびれる自分。コーチングスクールで勉強する自分。地中海で泳ぐ自分。街で日用品を買う自分。充実した日々を送る自分を想像した。

そう、つい最近、妻と晩酌をかわしながらこんな話もした。
「10年後の自分と20年後の自分を考えてみるか」
私の10年後はJリーグの監督だった。

「んー、まずはS級ライセンスを何とか取って、Jリーグからのオファーを待つ。日本中、いろいろな場所で指導者としての経験を積み、10年後に地元のヴァンフォーレ甲府で采配を振るんだ。でも、そのためにはこの腹をなんとかしないと。中年太りじゃ話にならないからな」

それから、20年後の私。
「少年サッカーの監督をしている。練習中はきっと、鬼監督かな。でも、練習の最後、クールダウンをしてストレッチをした後にいろいろな話をしてあげるんだ。俺がサッカーを通じて経験したこと、出会いや見たことを話す。子供たちは、思い思いに耳を傾ける。ボールの上にチョコンって座って聴く者。芝生の上に足を投げ出している者。体育座りで聞き入っている者もいる。そうだな、例えば、こんな話しをしてあげる。『今日は人と違う大切な個性についてだ。何年も前のことになるけど、デンマーク人でアラン・シモンセンという選手がいて、この選手の身体は細くて小さかったけど素晴らしい選手だった。彼のパスは絶妙のタイミングで出され、味方を活かしていた。それから気がつくとゴール前の開いたスペースを探して走りこみシュートを決めるんだ。強引さはなかったけど、ずば抜けた機敏さがあった。自分の個性を最大限に活かして、また味方に活かしてもらったからアラン・シモンセンは小さな巨人になれたんだ。僕も見てのとおり車椅子に乗っているけど、これも自分の人と違う大切な個性だと思っているよ』。それから、車で50日間ヨーロッパを周った話もしてあげたい。だから今から語りの練習もしないといけないかな」

現在、私は日本サッカー協会公認のS級ライセンス講習会に参加している。
取得できればJリーグの監督の資格が得られ、10年後の私に一歩近づけるのだ。

地図を見てそうだったように、思い描けることは実現できると私は信じている。

※今月のコラムで「真剣に生きること」の連載は最終回です。ご愛読頂き、誠にありがとうございました。これからも講演等で直接生の声をお伝えできればと思います。

羽中田昌

羽中田昌

羽中田昌はちゅうだまさし

サッカー解説者

サッカーの名門・韮崎高校にて2年連続全国大会準優勝。韮崎高校の黄金期のエースとして、その名を轟かせるが、高校卒業後、交通事故に遭い、脊髄を損傷、下半身不随の生活を余儀なくされる。その後、県庁に9年間勤…

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