若干29歳でNECのバレーボール監督に就任してから19年監督業を務めてきたわけだが、監督の仕事というのは、プレーする選手にいかに最高のパフォーマンスを引き出せるか、といういわばチームをマネージメントすることである。チームをマネージメントしていく中で重要なことは、選手といかにコミュニケーションを取り、『絆』を作るかということだ。
選手を褒める指導もその『絆』を作る為には重要だが、中でも選手一人ひとりが持つ個性をいかに早く理解し接しコミュニケーションを取っていくかが最も重要なことである。また、チームには必ず選手達の中心人物がいる。その一人との深い『絆』を作ることにより、他の選手との『絆』も早く作ることが出来る。
NEC監督時代は現在のNECブルーロケッツ監督 楊選手が所属していた。
彼は、普段は非常に優しい選手で、先輩からも後輩からも非常に親しまれていた。しかし、一度頭に血が上ってしまうと手が付けられない選手であった。180cmの私よりも10数センチも大柄な男を押さえつけるのは並大抵なものではない。
彼とは、毎日の様に何故自分のプレーが思っているより上手くいかないのか、何故調子が悪いのか、「俺はこう思うぞ」「俺は・・・だと思うぞ」と毎日、毎日他の選手が焼きもちを焼くくらい、彼とは常に話し合っていた。そうすると徐々に彼の方も心を開き始め、「僕は・・・したいのですがどうでしょう」などと私に自分の考えや思いなど話すようになってくれた。こうなればこちらのものだと確信した。それ以来、楊選手ともそして他の選手とも『絆』は更に深まっていくことになった。
だが、全日本チームに至ってはそう簡単にはいかない。
全日本チームは、各チームのエース級が集合してチームが成り立っており、更にチームとしての練習も非常に限られた時間になってしまう為、『絆』を形成していく時間は限りなく少なくなってしまう。しかし、私には幸運にも中垣内選手(現堺ブレイザーズ監督)がいた。それは、私が全日本の監督に就任したときには、怪我などもあり全盛期のプレーからは若干見劣りする状態にあった。
全盛期のプレーを良く知る私には、かなり物足りなく思えてしまい、全日本チームから彼を外した(心の中では彼の復活を期待する部分もあったが)。そして迎えたVリーグのシーズン。全日本の監督として会場へ足を運んでいた私の目には、以前の中垣内が復活していたのである。
私は、全日本チームにはやはり彼が必要だと感じた。
以前「もうお前は終わった」と言ってしまった彼の元へ行き、土下座をして全日本チームへの合流をお願いした。彼は快く引き受けてくれた。それから、シドニーオリンピック最終予選を迎え、残念なことにオリンピック出場の夢は絶たれてしまった私のもとへ彼は、「寺さんを男に出来なくてすいません」と言ってくれたのである。私は、やはりこの男を全日本チームに招集して本当に良かったと思った。
NECでは、常勝チームの監督として、全日本チームでは、オリンピックには行けなかったが、最高の選手達と出会い一緒に時間を共有できたことを今でも感謝したい。
選手達との一緒に夢を見たその『絆』は、また新たな出会いに向かう私の貴重な財産である。
寺廻太てらまわりふとし
PFUブルーキャッツ監督
元全日本男子バレーボール監督、韓国バレーボールプロリーグ プロコーチ。国内では男女両方の監督を務めるなど、コーチとして高いスキルを持つ。男子ではNECブルーロケッツ、女子ではJTマーヴェラスといずれも…
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