先月出版した拙著「最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術」(日本実業出版)のせいか、
「何から話していいか考え過ぎて言葉がすーっと出てこない」
「場の空気を読み過ぎて、話の輪に混じることが出来ない」
「得する雑談、損する雑談ってあるんですか?」
このように、雑談が苦手だ、という人たちからの相談を受けることが多くなりました。
「雑談など、どうでもいい。仕事の話さえできれば」と考えていた彼らが、仕事につなげる雑談が出来ないと、商談など10年早い、という事実に気がついたことはとてもいいことだと思います。
「で、どうしたらいいんですか?」ということになるのです。
私の答えは「相手の様子、表情、さりげない言葉をしっかり聞きとり観察し、いち早く興味関心を探り当てること」というものです。こう言うと、たいてい「もう少し、具体的に言ってくださいよ」との答えが返ってきます。
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「それなんだよ、それ!ちょっと引っかかった言葉をもっとリアルにわかりやすく理解したいと、好奇心のアンテナをぐっと伸ばしたから『もっと具体的に話せ』と云えたんじゃない? 『どうでもいいや』と思えば、『なるほど』の一言でスルーしていたはず。そういう姿勢だと、うまい雑談は交わせないんだよね。豊かな雑談というか、相手が共感する雑談というのは、相手の言葉や見た目で、引っかかったものがあったらそれを、口に出してみることから始めるといいんだよ。ただし、否定的な指摘は一般的にはNG。一般的と言ったのは、老獪な毒舌家は、あえて相手の欠点をズバリ突くことで、むしろ結果的にほめる、なんて言う高度な技を持っている。それには、年期と才能と修行がいるもので、若い君たちにはあまりにリスキーだから勧めない。ポジティブな方向で口に出す。
例えばね、
あなた:『雨の中でその素敵な皮のバッグ、濡れちゃって大丈夫なんですか?』
取引先:『ああ、これ?これイタリア出張で買ったんだけど、防水加工されてる
んだって。水滴がついても、色変わらないでしょう』
あなた:『梅雨のある日本には最高ですね。先日の買い付けにいらしたときで
すか?』
取引先:『そうそう。今回は収穫が多くてねえ』
あなた:『ほー、伺いたいですねえ』
取引先:『じつはねえ…』
まあ、こんな風に、入口は、取引先さんが、ちょっと大事そうに、いとおしそうに下げている感じがしたバッグを話題に雑談をしかけてみた。それが、相手の心に響いたんだね。よくぞ、私が自慢したいポイントを指摘してくれた、って感じかな。これも観察力あればこそなんだね。で、話しているうち、ものの30秒もたたないうちに気がついたら、商談に移行している。こう言うのが、理想的な雑談というわけさ。ね、雑談、馬鹿に出来ないでしょう」
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私の話が、どうしても説教臭くなるのは、私の悪い癖ですが、それでも、このように説明すると、たいてい、若い人たちも納得してくれているようです。気の利いた事を云わなければ、と自分の頭の中でもんもんとフレーズを探すより、相手をしっかり観察して、相手が大事にしているポイントを探し口にする。
例えば、今後の天気のことを気にしているようなら、
あなた:「あの雲、入道雲みたいのが西に動いていきますね。今朝のテレビの天
気予報でも、今日明日は関東全般に晴れマークでしたね」
取引先:「そうですかぁ。いやー実は、うちのお得意様向けの展示会を今日明日
と、お台場の芝生のあるところでやってるんですよ」
たった一言で、取引先の表情は明るい笑顔に包まれて、その後の話の運びもより円滑になろうというものです。
雑談とは、お医者様の「問診や触診」のようなものだと思います。患者の言葉を聞き、触りながら、表情を読み取る。これをきちんと出来れば、見立てはそんなに間違わない。そのまま様子を見れば、そのうち自然治癒するたぐいのものか、精密検査が必要なのか、緊急の手当てが必要なのか。患者との最初の接触で手が抜けないのと同じ。
「雑談」に手を抜くと、あとで取り返しがつかなくなるというわけです。
ただし、取引先との雑談一回ですべてを判断するのは危険です。相手の気持ちや、状況は刻一刻と変化するものでもあります。感情や、状況の変化をきっちり受け止め対処するためにも、ちょっとした隙間に、相手に負担を与えない軽い話「雑談」を上手に交わす必要があります。
雑談とは、このように、決して無駄話ではありません。
友好関係を深め、同時に情報収集を行う、戦略的なコミュニケーションの営みなのです。
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梶原しげるかじわらしげる
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1950年生まれ。神奈川県茅ケ崎出身、早稲田大学法学部卒。文化放送にアナウンサーとして入社。92年からフリーとなる。 バラエティーから報道まで数々の番組に出演し、49歳で東京成徳大学大学院 心理学研…
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