7月7日、七夕。
毎年七夕が近づくと、ある光景が脳裏に浮んできます。
東京では、七夕が近くなると、デパートや各駅の改札口に七夕の飾りが置かれます。ある年、駅の改札口を出るとそこにも竹飾りがかざられていました。「ああ今年もまた、七夕の季節がやってきたのだな~」と思いながらそこを通り過ぎようとした時、ある文字が私の目に飛び込んできました。
「一人の人間として扱ってほしい」
短冊に、そう書かれていました。これは、七夕の短冊に書かれてあった、一つの願い事です。
なんて悲しい言葉でしょうか。
大人なのか子どもなのか、誰が書いたのかわかりません。
でもそこには、振り絞るような深い悲しみがありました。
人の心が泣いている。人が病んでいる。言い知れぬ寂しさと、悲しさに私は思わずその場に立ち竦みました。
人は皆、まっすぐに生きたいと思います。
人は皆、幸せになりたいと思います。
人生には、色々なことがあります。良いこともあれば、悪いことも。
どうもがいても駄目な時、優しく声をかけてくれる人、だまって温かく見つめてくれる人、本気で叱ってくれる人が傍にいたら、どんなに救われるかわかりません。
人が孤立し、自分を守ることが精一杯で、他人の幸せを祈る余裕もない今、そのしわ寄せは、純粋で心優しい者や弱い子ども、お年寄りに向けられます。
人には、それぞれにその人の持つ良さがあります。
しかし、今の社会は、人を形あるものだけで評価し、そこに価値を見出そうとしています。
お金や、権力、肩書きそして偏差値が、人を人間らしさからほど遠いものに変えていく。そんな社会の中で、大人も子どもも悶え苦しみながら必至に、自分の居場所を求めているのではないでしょうか。
「一人の人間として扱ってほしい」という言葉は、実存する一人の人間の心からの叫びでもあります。こういった思いを抱く人々が声なき声を発しながら、多く埋もれているということを私たちは、忘れてはなりません。
情とは、心とは、愛とは、思いやりとは…そういったものが、いつの間にか消えかけ、社会がしなやかさを失い、人の心が貧しくなっているように思います。
人が人として生きづらくなった社会の中で、大人も子どもも、身構えることなく、安心してそこにいることができる心の居場所を求めている人が多いのではないかと思います。そして、その心の居場所とは、いったいどういうものなのか、私はそれが知りたくて、著書「愛をください」を書きました。
執筆にあたり多くの更生施設や民間の自立援助ホームを取材させていただき収容されている子どもたちと接し、彼らの奥深い心の声を聞きました。
様々な境遇の中で、どこにも行き場のない子どもたちが、今なお数多く存在しています。
親にひどい虐待をされ、「自分は生まれてこなければ良かった」と悲しいさがを今なお引きずりながら生きている子ども、戻る場所も避難場所さえない子どもが現実に多く存在しているということ、そこには大切な命があるということを、私たちはしっかりと受け止め、彼らを救いあげられる社会にしていくことが、とても重要であることを忘れてはならないと思います。
強い者が、弱い者を守ることが、昔から当たり前のことでした。その当たり前のことが、できない世の中になってしまいました。
自己中心的な人間が増え、自分さえ良ければの考えが、いつのまにか先に進み、情や、思いやりというものが薄くなってきています。
今、この原稿を書いている時にも、大阪で15歳の私立高校1年生男子が殺害され、17歳の男子生徒が逮捕されるという悲惨な事件が起きました。
こういう事件があった時こそ、子どもの傍にいる大人は、しっかりと子どもに教えてあげてほしいと思います。
いかなる時も、このようなことは、してはならないということ。人の命は、何よりも尊いということ、自らの命を大切にすること。また、人の命を、他の者がなくしてはならないということを、しっかりと子どもの傍らで子どもの心に言葉を届けてほしいのです。
一人一人の存在の大きさ、命の尊さを、今、根本から問い直されているように思います。それをしっかりしなければ、短冊に書かれたような悲痛の叫びは、今後さらに多くなっていく気がしてなりません。
「一人の人間として扱ってほしい」
とても悲しい人の叫びです。
捨てるべき人間はいない。
なくして良い命などない。
生まれてきて良かったと、一人一人が思える人生であることを願ってやみません。
春日美奈子かすがみなこ
フリージャーナリスト
國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。
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