2016年最初の五輪出場を賭けた国際大会が、1月12日に開幕します。サッカー男子のアジア最終予選です。
今回の予選は、中東のカタールに16か国が集い、セントラル方式と呼ばれる集中開催で争われます。アジアからリオ五輪に出場できるのは、わずかに3か国です。
1996年のアトランタ大会から、日本は5大会連続で予選を突破しています。私自身、96年と2000年はコーチとして、04年は監督としてアジア予選に臨みました。
手倉森誠監督が率いる今回のチームは、アジアの各種大会でベスト4以上の成績を残したことがありません。そのため、予選突破を危惧する報道も見られます。しかも、集中開催ですから、ひとつの躓きが致命傷になりかねません。
私の見立ては、少し違います。
選手の顔ぶれに不足はありません。キャプテンで攻守のつなぎ役を担う遠藤航、攻撃的なミッドフィールダーの南野拓実は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のもとで日本代表に選ばれています。昨年のJ1リーグを制したサンフレッチェ広島で、8ゴールを記録した浅野拓磨も日本代表に招集されたことがある。さらに、ストライカーの久保裕也は、13年7月からスイスでプレーしている。南野もオーストリアのクラブで、結果を残している。
過去の国際大会で苦汁をなめてきたとはいえ、選手の質が他国より劣っているとは思えません。3つの出場枠を勝ち取ることは、高すぎるハードルではないでしょう。選手たちが持っている力をそのまま出せれば、十分にトップ3入りは可能です。
サッカーに興味のある方なら、『山本さん、「持っている力をそのまま出す」のが難しいのは分かっているでしょう?』と言いたいかもしれません。
もちろん、そのとおりです。トップ3に入るということは、グループリーグの3試合を戦って上位2か国になり、準々決勝で勝ち、準決勝でも勝たなければならない。あるいは、3位決定戦を制さなければならない。心身ともに疲労が溜まっていく5試合目、6試合目で、“ここぞ”という力を出し切らなければいけないのです。これは、簡単なことではありません。
そうは言っても、日本サッカー界には経験があります。これまで5大会連続で五輪に出場していることは、すでに述べました。過去の五輪予選は、今回と同じセントラル方式、2か国を舞台とするダブル・セントラル方式、一般的なホーム&アウェイ方式と、様々なレギュレーションで行われてきました。そのすべてで、結果を残しています。日本サッカー界には知見があるのです。蓄積されたノウハウが生かされれば、選手が力を出し切れる環境を作り出せるでしょう。
今回の最終予選には、専属のシェフが帯同しています。日本代表はともかく、年齢別の代表ではなかなか実現しなかったことです。日本サッカー協会の意気込みがうかがえるもので、こうしたサポートが成果に結びつくことを、私も期待しています。
チームは1月3日にカタールの首都ドーハに入りましたが、直後にキャプテンの遠藤がインフルエンザを発症しました。13日のグループリーグ初戦を前にした練習試合に、彼は出場することができませんでした。
私自身の経験から言うと、彼がベストコンディションを取り戻すには2週間前後が必要です。最終予選のカレンダーに照らせば、1月17日前後くらいでしょうか。チームはすでに2試合を消化しており、19日には第3戦を控えているタイミングです。
大会序盤をキャプテン不在で戦うことが現実味を帯びていますが、やりかた次第ではプラスに持っていくこともできるでしょう。
私ならこう考えます。グループリーグでは、たとえコンディションが回復しても遠藤に無理はさせない。チーム全体に疲労感が忍び寄る準々決勝以降の戦いで、“新戦力”として頑張ってもらえばいい──。
今回のような短期決戦を勝ち抜くには、何らかのアクシデントに見舞われるものです。重要なのはアクシデントの影響を最小限に止め、できるならプラスへ転じることです。遠藤の起用法を含めた手倉森監督のマネジメントに、私は注目しています。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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