「えっなんだってぇ!自殺したぁ!」と叫ぶと同時に私の目からは涙が溢れてきました。弟の様に可愛がっていた2才年下の従弟が自殺をしてしまったのです。私がこの目で遺体も見ず、死の確認もしていないのに号泣です。何故なら、自殺をしてまった理由が分かるからです。疑いの余地もなかったのです。それは、彼の幼少の頃からの不幸な姿を目にしていたからです。
彼は、母方の伯父の子です。伯父は、身内のトラブルメーカーでした。と言っても、酒乱だとか、そういうことではなく、誤解しやい短気な伯父様でした。親戚の集まりがあると、結構もめていました。すぐ、興奮してしまうのです。彼はその伯父様の2人目の奥さんの連れ子でした。1人目の奥さんとは2人の子供がいて、1人連れて再婚をし、和彦は2人目の奥さんとの子です。伯父は2人目の奥さんとも別れ、その異母兄弟2人を連れ、再再婚をしたのです。そして、その第3の奥さんの間にも1人男の子をもうけました。3人の異母兄弟です。簡単に言えば、彼は「継母」に育てられていたのでした。
私が小学生の時に伯父の家に泊まりに行った時の事です。伯父は喜んで、色々な惣菜を買ってきてくれました。夕食の時間になり、義伯母はご飯をよそってくれました。「はい!郷詞ちゃん、利行(末っ子、義伯母実子)」と言って炊き立てのご飯をくれました。そして、長男(一番目の奥さんの連れ子、秀則)と次男(二番目の奥さんの連れ子、和彦)には、「おまえ達はこれでいいね。」と残っていた冷飯を与えていました。きっと、私の知らない場面ではもっと色々な事があったと思います。彼の子供心に感じる何かがあったのではないかと思います。私にはその時の光景が頭に残っており、自殺をしたと聞いた時に「色々つらい場面があったのだろう!」と号泣してしまったのです。今思えば、年の離れた弟(利行)とお客さん(私)に温かいご飯を食べてもらうから、あなた達は兄なんだから少し我慢してね。冷飯を食べるのを協力してね。という気持ちだったのかも知れません。私には真実が分かりませんので、この辺で止めておきます。
私は、母の知人の車に乗せてもらい(我が家に車がないもので)、伯父の家に向かいました。車に乗る前に母に言いました。「国体のユニフォームを用意してくれるかな」母は何も言わずに用意をしてくれました。伯父の家に着きました。他の親戚も集まっています。「郷詞が来たよ」誰かが叫びます。皆集まって来て、車から車椅子へと乗せかえてくれました。部屋の中へと連れて行かれると、そこには伯父と彼の姿はありませんでした。「今、警察に行ってるよ」誰かが言いました。しばらく、沈痛なムードが漂います。「郷詞、身体はどう?」年の離れた従兄が尋ねます。「う~んダメだよ。もう治らないらしいよ」私は応えました。「なんとかならないものかなぁ」皆が心配してくれています。
すぐに会話はとぎれ、再び沈痛なムードが漂います。そんな中、私が呟きます。「和、死んでなかったりしてね。只今、って帰ってきたりしてね。」皆苦笑いです。「だと良いな。」誰かが呟きました。きっと、誰もがそう思っていたのでしょう。身内の死は嫌なものです。すると、その時、「帰ってきた!帰ってきたよ!」大声で誰かが叫びました。男性は皆外へ出て行きました。しばらくすると、棺おけが運ばれてきました。市営住宅で玄関に入るのにL字になっている為、棺おけが通れません。仕方なく、窓から棺おけを入れたのを覚えています。皆が泣き崩れます。「郷詞、こっちおいで」誰かが私を抱きかかえ、棺おけの側へ連れて行ってくれました。
そこには、間違いなく、変わり果てた姿で彼が横たわっていました。(和、起きろよ・・。)私は心の中で呟きました。彼は16才という若さで何故死を選ばねばならなかったのか。(おまえの人生いったいなんだったんだよ・・・)悔しさと虚しさだけが私の心に去来します。(おまえ、実母に会いたかっただろ・・・)なんともやり切れない淋しさでした。私は、彼が生前に欲しがっていた「国体のユニフォーム」を、冷たくなった彼にかけてあげました。そして、私は、通夜、葬儀の後、祭壇の前に寝かせてもらいました。
葬儀を終え火葬も終わり、皆、帰っていきました。火葬場で彼を火葬している最中、煙突から出ている煙と燃焼熱での陽炎をみては、何度も何度もある歌が私の脳裏をよぎります。入院中に誰かが録音をしてくれた歌です。「坂道が、空まで続いていて、陽炎があの子を包み、誰も気付かず、何も恐れず、独りあの子は昇って行った。今は、幸せ。」そんな感じの歌詞でした。彼は、独りで倉庫のような所で、首をつり亡くなりました。誰にも気づかれず、発見された時は、死後二日が経過しており、彼は何も恐れず、この世から去りました。苦労した人生に「別れ」を告げ、今は幸せに、私達を見守ってくれていると思います。私は、彼の幸せを信じ、只冥福を祈るだけです。彼の生い立ちから死を見つめ、今も涙が流れます。
第14話完
濱宮郷詞はまみやさとし
コラムニスト
「何故、自分だけが、寝たきりに・・・」 毎日、死ぬ事ばかり考えていた。 そんな時、あなたと出逢い、あなたがそばに来てくれた時、生きる事に決めたんだ。 あなたが与えてくれた命。目の前には「無限の可能…
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