基本的な訓練に加え、自動車訓練も始まりました。最初はハンドルを回す練習です。とは言え、指が動ないのでハンドルを持てません。足も動かないのでアクセル、ブレーキが踏めません。と言うと驚くかも知れません。「どうやって運転するの?」とお思いの方もいると思います。私のような障害者は片手がハンドル、そして反対の手がアクセルとブレーキに連動させた棒を握るのです。押すとブレーキ、引くとアクセルとなるのです。しかし、指が動きませんのでハンドルを握れません。なので、手の型を石膏で取りプラスチックのような物で手形のハンドルノブを作ります。それをハンドルに取り付けて、手をはめてハンドルを廻すのです。
ハンドルを廻します。しかし、これが重いのなんのって、というか、ハンドルが廻る方向に手が動かないんです。最初は筋力が無いからだと思っていたんです。で、必死に腕に筋力をつける訓練をしました。そして、運転免許試験場へ適正検査にいったんです。免許は高校生のときに学校に内緒で取得したんです。なので、検査はハンドルが廻せるかの検査のみ。だから比較的楽なはずなんですが。
作業療法士と共に運転試験場へ向かいます。作業療法士は今の段階では「受からない」と分っていた様子です。しかし、私がしつこく「検査へ行こう!」というので、とりあえず、現実を教えたかったのだと思います。2時間ほど走ると試験場へ着きました。車から療法士に車椅子へ乗せてもらい中へ進みます。緊張して待っていると公安委員会の担当検査官が来ました。「こんにちは」お互い挨拶をします。そして、ハンドルの席に座らせてもらいました。しかし、変な話ですね。自分で座席に移れないのに免許をとろうなんて・・・。
そう、変な話なんです。障害を持ち今から免許を取得する場合は、「安全な乗り降り」という項目があり、読んで字のごとく「安全な乗り降り」が試験項目にあります。しかし、既に取得してある場合はハンドルやアクセル、ブレーキ操作の確認だけなんです。「安全な乗り降り」は確認されないのです。なので、自分で乗り降り出来ずとも運転OK!になるのです。適正だけなんです。なんか変でしょ。乗り降りが出来なくても、ハンドル、アクセル、ブレーキが出来れば免許は更新してもらえるんです。まっ乗り降り出来ないのに運転しようとする人がいるなんて想定もしていないんでしょうね。
結局、ハンドルが廻せずOKが出ませんでした。ハンドルが重くて重くて・・・。それからというもの、更に訓練を強化しました。運転免許取得の為に必死の毎日でした・・・。
第20話完
濱宮郷詞はまみやさとし
コラムニスト
「何故、自分だけが、寝たきりに・・・」 毎日、死ぬ事ばかり考えていた。 そんな時、あなたと出逢い、あなたがそばに来てくれた時、生きる事に決めたんだ。 あなたが与えてくれた命。目の前には「無限の可能…