本格的な夏はもう目前。夏の暑さを吹き飛ばすぐらい気合いの入った熱い話をとテーマを考えていたのですが、今回は「覚悟と決断」をテーマに選ばせて頂くことにしました。いきなり予想外だったかもしれません。言葉の印象は熱いというより重い感じがするのではないでしょうか。
なぜ今回これをテーマにしたのか?それはこんな出来事があったからなんです。
数日前、私の大切な友人から突然の告白を受けました。切り出された内容というのは、彼女の幼い娘さんがなんと十万人に一人という確率でしかかからない難病にかかってしまったというショッキングなニュースだったのです。私は聞いた瞬間「えっ!?」と絶句し、次の言葉を返すことができませんでした。しかし友人はもう覚悟を決め、その運命を受け入れ娘さんを守っていくと、人生の決断をしていました。疲れた様子が伺えましたが、その表情はぐっと前を見据え、どんな逆境にも立ち向かえる頼もしさを感じるものでした。
この出来事で「人間が成長したり心が強く変われるのはとても素晴らしいことだけど、こんなに大きな試練を越えなければ、成長や変化はないのだろうか?」と、そんなことを考えてしまいました。そしてとても切なくなりました。彼女はとても人柄がよく、手抜きもしない人なのになぜこんなことに?と思ってしまうのです。悲しいかなでもそれが事実なのかもしれません。振り返れば、私の人生も転機を迎えるときには必ず葛藤がありました。シンクロの選手時代も、選手を引退しセカンドキャリアをスタートした後も、「どうしてこんなにつらいことばかりが起こるんだろう」と、泣いて、泣いて、自分の身に起こっていることを恨めしく思ったことが何度かあります。皆さんもきっとそんなご経験があるのではないでしょうか。
自分の経験は、友人のケースのように命に関わることではなかったので同じ次元でお話を進めてもいいかどうか迷いましたが、それでも言えることは、置かれている環境に不遇があったとしたら、自らが動かなければ改善はされません。自分以外の誰もできません。自分の人生を誰かが肩代わりするなんていうことは有り得ないからです。当たり前のことを言っているようですが、私はそう思います。
選手時代の話になりますが、7歳で始めたシンクロがいつの間にか自分の全てになっていました。使ってきた時間も、思考回路も、何もかもシンクロを最優先事項にしていて、今改めてこんな風に没頭できたのは、家族を含め、私に関わった全ての方々が支えて下さったお陰だったと思います。だからどんな理由であれ、途中で投げ出すことはしたくありませんでしたし、できませんでした。どんなに辛い練習が続いても、自分の力の限界を感じようとも、「辞めようかな…」と心によぎっても、思い止まりました。周りで支えて下っている方々に選手として恩返しできる唯一の方法は、お金とか物質的なものではなく、最高のパフォーマンスをして返すことだけなのです。辞めることをせず「戦い続ける」という覚悟と決断をしたからこそ、かけがえないの経験をすることができましたし、その経験が私を大きく成長させてくれたと実感しています。
よく考えてみれば実際私達は毎日何かを決断しています。それが生きているということなのかもしれません。出来事が些細だと人間はそれを単なる日常として気づかないまま通り過ぎてしまい、成長できるチャンスを逃していまいがちです。しかし、大きい試練だけが成長できるチャンスでしょうか。出来事の大きさに関係なくその中でしっかりと覚悟と決断をしていけば、毎日自分を更新していくことができますし、小さくとも苦労の一つずつが報われていくと私は思います。その積み重ねが自信にも繋がる。覚悟はとても勇気のいることかもしれないですが、人を成長させる大事なプロセスの一つですね。
友人は今回の件で得たものがあると話してくれました。それは家族の絆だったそうです。
「一番大切にしたいものがものすごくよくわかって本当によかったと思う。娘との時間が貴重だと思えるから、今までなら後回しにしてきたことを、どんどん経験をさせてやりたいと思う。夫をはじめ、父、母、支えてくれている周りの人がたくさんいることを改めて知り、嬉しくて、有難くて、また愛しさが増した。頑張れる。」と。
本心の言葉だと思いました。
それに、彼女が話すその横顔が、見たことのない表情で思わず見とれてしまうほど魅力的でした。
覚悟と決断。皆さんはしてますか?
武田美保たけだみほ
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト
アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…
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