「職場がギスギスしている」
「みんなが不機嫌な顔をしている」―どこへ行ってもこんな声が聞こえてきます。
主たる原因は、「効率化」という掛け声のもと、ほとんどの職種で、一人あたりの労働量が過重になってきていることだと感じられます。
ここ数年、毎年夏に、ラジオ番組を審査する会の委員として、全国30局あまりの放送局の制作スタッフと話をする機会があります。東京のキー局を別にすれば、一人の番組制作者が企画から、構成、台本作り、しゃべりに至るまで、すべてを取り仕切ることが珍しくありません。
一昔前の「いい時代」の放送局は、地方であっても、制作マンは、うるさ型の先輩プロデューサー、後輩のAD(アシスタントディレクター)、構成作家、音のプロでミキサーさんと呼ばれる人と、そしてメインのアナウンサー、アシスタントのタレントさんで一チームを構成し、ああでもない、こうでもないと意見をぶつけ合いながら番組を作るのが普通でした。時にはそのやり取りが煩わしく思えることもあったのですが、そんなコミュニケーションの中から、互いの信頼感が生まれ、それが心の支えともなっていたものでした。
ところが今は、放送機材の進歩もあって、一人で複数の仕事が可能になりました。さらに、ネット広告の伸びに、ラジオ業界の収益体制が悪化し、このところの不況による人件費節約圧力が増し、より一層の効率化を迫られています。その結果、前述のような一人ひとりが孤立して仕事せざるを得ない状況が生まれているのです。
厳しい競争を勝ち抜くための、より一層の効率化が求められ、一人あたりの仕事量が増加傾向にあるのは、何も放送業界に限ったことではありません。高度化する、医療現場の、医師や看護師さんたち、販売、営業、工場労働など、物作りの現場など、ほとんどの職場が直面している問題だと思います。
忙しくしている仲間や先輩に仕事の相談をするのもはばかられる雰囲気。そんな中、どうでもいいうわさ話や世間話など、「井戸端会議」的雑談を交わす機会など、目に見えて減ってきていることでしょう。しかし、仕事の相談も、雑談も、直接対面して互いの表情を読み合いながら言葉を交わすという行為は、人間関係を深める大事なコミュニケーションの機会です。この機会の減少は、人間関係の希薄化に繋がります。
豊かな人間関係が互いの感情交流を促進する。このような好ましい状態をカウンセリング心理学では「リレーションを築く」と表現します。他者との適切なリレーションが築けていると、心の問題が起きにくいものです。反対に、仲間や上司や後輩への疑心暗鬼、イライラ、不安、抑うつは、リレーションが十分に築けない環境に起きやすいのです。
リレーションが築けていない組織内では、個々人は自分の心を他人に開こうとしません。自分の思っていることを他人に軽々としゃべると、馬鹿にされるのではないか、足元をすくわれるのではないかといった警戒心ばかりが募り、ますますリレーションが築けない悪循環ができてしまいます。
こういう場面で大切なのが、職場のリーダーの役割です。
かつてなら、職場の上司は、仕事を命じた部下の士気を鼓舞し、叱咤激励して、緊張を強い目標達成を志功すればよし、との考え方もありました(説得型、教示型リーダーシップ)。部下たちは上司への不満があれば、仲間同士で愚痴をこぼしあったり、悪口で憂さを晴らしたりして、ストレス解消ができました。ところが、仲間同士のリレーションさえ築けていないとすれば、ストレスの吐き出し場がなく、貯め込む一方で、いつかは精神的に破たんしかねません。だからこそ、上に立つ者は部下を無理やり統率しよう、などという考えは捨てたほうがいいでしょう。高みから「理路整然」と正論を説いても、孤立した部下たちを追い詰めるだけです。現代の上司には、部下の話をよく聞く「交流型のリーダーシップ」を発揮することが望まれます。そのためにも、「カウンセリングマインド」が求められているのです。
カウンセリングマインドとは、平たく言えば、カウンセラーのように、相手(ここでは部下)の立場に十分共感しながら、話をうまく聞き出し、耳を傾け、理解し、困難には温かく手を差し伸べ、少しでも良いところがあれば、心から賞賛することです。
人は、意識しないと、他人の悪いところばかりに目がいきます。悪いところを探し、指摘するのは簡単だからです。テレビを見ていても「このタレント、自意識過剰じゃない。ちっとも面白くないし」くらいのことは、誰でも言えますが、同じ芸の「いいところを見つけろ」と言われたら、よほどのファンでない限り相当エネルギーがいるはずです。
「いいところ探し」は「相手を慈しみ養育する強い母心」(カウンセリングの1技法、交流分析では「NP」=「Nurturing Parent」=「子どもにおっぱいをやるような、深く思いやる養育的な親の心」と表現する)がないと出来ません。辛辣な批評は誰でもできますが、相手の心に響く「ほめ」は、鋭い観察力と、集中力を持った者にしかできません。そういう能力があって初めて「親ごころ」、「母心」が発揮できるのです。ただのお世辞や、おざなりで見当違いなお追従は、部下を「ムカつかせる」だけなので厄介です。
カウンセリングマインドとは、何も難しいことではありません。上司が、上司としての役割関係交流だけにこだわらず、役割を離れた人間同士の感情交流も合わせて行う努力をいとわないということ。そのためには、「上司だから、部下になめられてはいけない」と完璧人間を装ったりしてはなりません。
先輩としての強みもあるが、意外におっちょこちょいでダメなところや、弱かったり、緩かったりする面も、構えることなく部下に見せる勇気をもつことが大事なのです。これを「自己開示」といいます。
「自己開示」は、仲間同士はもちろん、部下と上司の間の「リレーションづくり」にも欠かせません。このリレーションをベースに、相手の話に耳を傾けてみましょう。相手をしっかり観察し、表面には現れていないかもしれない、部下の本当の気持ちを聞き取るのです。そして、その本音に向けて、適切に労ったり、励ましたり、共感の言葉をかけたりする、これが、カウンセリングマインドです。
※拙著『聞き管理』(徳間書店)には、聞き方一つで、さまざまな問題解決を図り、
危機を克服する放略について触れています。
実は、講演では、こんなふうに難しい話し方はしません。
ストレスフルな職場や家庭を、どんなコミュニケーションで風通しのいい、楽しい場所にするのか。その簡単な「コツ」や「技術」をお伝えしています。実体験を基にした面白エピソード満載で、笑いっぱなしの90分間をお約束しますよ。
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