前回に引き続き、ネット社会をどう生きるかという点について書いてみましょう。
子どもたちを取材していて痛感するのは、彼らが抱える「将来への不安感」です。特に地方では、地域の基幹産業が衰退したり、大きな工場が撤退したり、「働く場所がない」という空気感が強まっています。また、従来の人生設計ルートに大きな変化が生じていることも見過ごせません。日本有数の大企業でさえ、「大規模リストラ」などと報じられます。いい大学に入り、いい会社に就職できても、それで一生安泰という保障は揺らいでいます。ネットニュースやコミュニティサイトでは、「ブラック企業」、「過労死」、「貧困」などの言葉も飛び交います。むろん大きな社会問題ですが、こうした情報がいっそう子どもたちの不安を駆りたてているのです。
では、本当に彼らの将来は「お先真っ暗」なのでしょうか? 厳しいことは予想されますが、だからこそ「こうして生き残れ」という教育、情報が大切だと思います。
たとえば、車の自動運転について考えてみましょう。AI(人工知能)やICT(情報通信技術)によって、「人が運転しなくても、自動で車が走行する」未来が目の前に来ています。国内外で自動運転車の実験が行われていますし、2020年の東京オリンピックを機に、実際に自動運転車が稼働すると言われています。「人が運転しなくていい」ことで、「運転手の仕事がなくなる」という声もあります。
世界的なIT企業・マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は次のように語っています。
「ソフトウェアが運転手やウエイター、看護師の仕事を代行するため、仕事の需要はなくなっていくだろう。現在ある仕事の多くが、次の20年でどんどん消えていく」まさに、「運転手の仕事がなくなる」と言っているわけです。
私は、ある会合で出会ったタクシー会社の社長さんにこの話を振ってみました。
「自動運転車の登場で、本当に運転手さんは消えるのでしょうか?」
社長さんは苦笑しながらこう言いました。
「確かに厳しいことは事実でしょう。しかし、タクシーを利用するお客さんは、単に目的地まで行ければいいという話ではなく、人のサービスや機転、気遣いを必要している場合が多いんですよ」
たとえば高齢の方が買い物のためにタクシーを利用するなら、運転手さんがお客さんに代わって重い買い物袋を玄関先まで運ぶ。大雪の中でタクシーを呼ぶ人がいたら、乗降しやすい安全な場所を見つけて案内する。さりげない手助けや状況に応じたきめ細かいサービスは、機械には取って代われない、そう社長さんは話されたのです。
要は、「人」ならではの誠意や機微を必要とする、だからそういう力を持った人は生き残れるというのでしょう。
そう考えると、子どもたちの将来にどんなスキルが必要か見えてきます。AIやICTが活用されるのは事実でしょうが、一方で臨機応変なコミュニケーション、柔軟な発想などが大切になってきます。AIは「予測」を計算しますが、私たちが生きる現実社会には「想定外」のことが起きるものです。
マニュアルではない力を養う、自分の頭で考え、行動できる力を具体的に伝えていく、そこが大切だと思うのです。まずは家庭の中で、力試しをしてみてはどうでしょう。講演の際にも話すのですが、たとえば水道を流しっぱなしにせず、一杯の洗面器の水で洗顔や歯磨きをするとしたらどうやって使うか?一見些細なことのようですが、いざ子どもにやってもらうとできない。やがて子どもなりに一生懸命考え、試行錯誤をします。こうした日々の体験が、彼らに真の生きる力を与えていくのです。
石川結貴いしかわゆうき
ジャーナリスト
家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…
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