日本では法的に、人事異動などは会社の裁量で行ってよい(従業員はそれに従う必要がある)ことになっているので、キャリアを自分でデザインするという発想に固執するのは問題があるが、それでも会社の指示するまま、全くの成り行きで仕事人生を過ごすよりはマシなので、数年に一度くらいのタイミングでキャリアを振り返り、今後を展望しておくことには意味がある。
しかし、キャリアを考えるとき、多くの人が振り返りにおいては何故そのようになってきたかが判然としない、展望においても理想論で地に足が着いていない感じがするといったことになりがちである。これは、どうしても仕事や仕事の能力ばかりに目が行ってしまうからだ。キャリアを考えるときには、そもそも自分についての考察が欠かせない。それを抜きにキャリアについて考えても、職務経歴書と大差ない内容になってしまう。キャリアの振り返りや展望の内容を充実させるためには、次の5つについての考察が必要である。
一つ目は、自分の属する世代の特徴である。どのような時代に生まれ育ったかは、人生に大きく影響する。戦争世代、団塊世代、・・・バブル、ゆとりなど世代の名称は色々とあるが、物心がつくかつかないかという年頃までの環境は価値観や生き様に影響し、そう簡単に変わるものではない。自分が属する世代特有の物事に対する考え方は、自分の仕事観・会社観などにも関係しているのだから、キャリアを振り返ったり展望したりするときにも大いに参考になるはずだ。
二つ目は、自分は時代にどのような影響を受けてきたかである。世代とは関係なく、時代の変化は同じ時代に生きている人、全員に影響を与える。バブルの前後では経営のありよう、評価や報酬の仕組み、職場の人間関係、ガバナンスなどが様変わりしており、働く人たち全てに影響を与えている。経済のソフト化、IT、グローバル、高齢化なども同様だ。従って、どのような変化に対して、会社や自分がどう変わってきたかを把握しておくのは、キャリアを客観視する上で重要になる。
三つ目は、自分が年齢を重ねることでどのような思考・態度の変化をしてきたかである。誰でも、年をとれば肉体だけでなくモノの考え方も変化する。目標の立て方や目標に対するこだわり、他者への見方や関わり方、成功・失敗など結果に対する総括の仕方、仕事や会社の位置づけ、などは必ず年とともに変わっていくし、これからも変わっていく。年齢による自分の変化を無視してキャリアを考えても、表面的なものに終わるだろう。
四つ目は、自分の育ちである。親の姿や教育方法など幼い頃の身近な環境は、いくつになっても染み付いてとれないほどの大きな影響をそれぞれに及ぼしている。年をとって自分を客観視できるようになってくると、「親に似ている」と実感する人が多いのはその証左である。会社選びにおいても、親の仕事や仕事ぶり、親の会社観・仕事観と無関係という人は少ない。人づきあい、職場での振舞い、金銭感覚、商売っ気、困難への取り組み姿勢なども育ってきた環境に少なからず影響された結果だ。だから、育ちという原点を見つめなおすのも、キャリアを考える際には有効である。
最後に、自分の素質である。行動や思考の特性、能力的特徴や有無、得意・不得意な分野、好き・嫌いと感じることなども、そう変わるものではない。大きなフレームで物事を考える癖のある人が、急に細かな点に気付けるようになったりしないし、フットワークの軽かった人がいきなり思慮深い人間になったりもしない。様々な仕事の結果やキャリアの軌跡はこれらの特性や能力が原因の一つなのであり、自分の素質について大雑把でも仮説であっても考えておいたほうがよいだろう。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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