今回はこころの傷を負ったときに少し休むことによって、さらに強いこころを持つことができるという「こころの超回復」についてお話しします。
今、健康ブームにのってスポーツクラブに人気が集まっています。特に、最近はスポーツ選手の影響を受けて、ジムでの筋力トレーニングを取り入れている人が増えています。しかしながら、人間の体をよく知らずに筋力トレーニングを行っている人も目立ちます。
たとえば、みなさんは筋力アップのために毎日のように厳しい筋力トレーニングをすると逆効果であることは知っていますか。筋力トレーニングを毎日続けることで、日をおいてトレーニングするよりも筋力がアップするような気がしますが、これは間違いです。筋力トレーニングによって筋肉を強くするには、トレーニングだけでなく休養についても考慮することが大切です。
筋力トレーニングと休養の関係を理解する上でまず重要なことは、「超回復」という現象を知ることです。「超回復」とは、筋力トレーニング後に24~48時間くらいの休養をとることによって起こる現象で、休養の間に筋肉の総量がトレーニング前よりも増加することをいいます。筋力トレーニングを行うことによって筋肉は破壊され、それから24~48時間かけて徐々に修復されます。トレーニング後は筋肉が破壊されてしまうので、トレーニング前よりも筋肉の総量は減少しますが、適切な休養を与えることで修復され、さらには「超回復」が起きて、一度減少してしまったはずの筋肉がトレーニング前よりも大きな筋肉になるのです。
「超回復」を知らない人たちは筋肉の修復を待たずに次のトレーニングを行ってしまいます。一定の休養時間を取らずに筋力トレーニングを毎日行うと、筋量が増加する前に筋肉が再度破壊されてしまい、筋肉は痩せ細ってしまいます。より効率の良い筋力トレーニングを行うためにも、トレーニング間に適切な休養を取ることが重要なのです。
さて、この「超回復」の話は筋力トレーニングだけの話ではないのです。人のこころにも「超回復」は起こります。
これは、仕事でミスをして上司にしかられたり、お客様から注意を受けたりして落ち込んだ時に、失いかけた自信やプライドを自分からすべて打ち崩してしまうと、新しく強い自信やプライドが構築されるということです。「あれは完全にあいつのミスだ。あれさえなければ…」といった責任転嫁の余地が残っていたとしても、あえてすべてを自分のせいにして考えてみてください。「この失敗は自分が悪いんだ」と考えることで、非常に落ち込むでしょう。自分のイヤな面にもたくさん気づくでしょう。しかし、それらもひっくるめて根本的に考えてみることから「こころの超回復」は始まるのです。
「自分が悪い」という心もちで周囲を眺めると、これまでに見えなかったさまざまなものが見えてきます。それは仕事相手や同僚、上司などの考え方やその違い、自分の仕事の進め方の問題点などです。上司にしかられたり、お客様から注意を受けたりという試練の先には一回り強い自分が待っているはずです。このくり返しによって私たち人間は、「こころの超回復」をし続け、進化していくのです。
このように、人間はこころの傷を負ってもこころの傷が回復する時に、こころは前より少し強くなります。人間は「こころの超回復」によって、人の痛みも分かる強さと優しさを持つようになるのです。こころが傷付いた時、すぐに上を向こうとせず、少しそのままこころを休めることも必要です。筋力トレーニングの常識は、こころのトレーニングにも応用ができるのです。
私たちがこころの傷をいやしたり、ストレスを発散するためには「休養」が必要です。「休養」には「休む」と「養う」の2つの意味があります。仕事の後や休日には体を休めることが大事ですが、趣味や旅行、スポーツ、家族との団らんや友人とのつきあいで「自分を養う」ことも大切です。「休養」と仕事を繰り返しているうちに私たちのこころは強くなっていくのです。「麦は踏まれて強くなる」と言いますが、人間も生まれながらに踏まれても立ち上がろうとする強い生命力を持っています。私たちも「こころの超回復」を繰り返して、心強さとやさしさを持った人間になりましょう。
次回は「怒りの感情は第二感情」という話をしたいと思います。
キティこうぞうきてぃこうぞう
職場のメンタルケアコーチ
1964年、名古屋生まれ。名古屋大学経済学部経営学科にて、「産業組織心理学」、「マーケティング心理学」を専攻。1987年に卒業後、株式会社名鉄百貨店入社。子供服売場、法人外商を担当し、顧客心理学を実践…
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