地方での講演や学会の楽しみの一つは、地方の多くの方々とお会いできることと、その地方ならではの風景を楽しませていただけることです。今月は地方での講演や学会が多く、東京では味わえない人の温かさそして、車窓から大自然のおりなす見事な風景を楽しませていただくことができました。ちらほら紅葉で色づく中、黄金色の稲穂が風に身をまかせる姿は実に壮大であり美しいものでした。
まさに収穫の秋。
「実るほど頭(こうべ)を垂れる
稲穂かな」
″人格の高い人ほど相手に対して態度が謙虚である〟という意味をもつ先人が残した言葉ですが、ふとこの言葉が脳裏に浮びました。自己中心的な人が多くなり、自分より弱い者を見下す人間が多くなった今、自然は、その大自然がおりなす姿を通して人に何かを語り、諭しています。″実るほど頭を垂れる稲穂かな″人の生き方も実にこうありたいものですね。
さて、みなさんは、児童自立支援施設(旧教護院)をご存知ですか?今月はこの児童自立支援施設の営みを通して、子どもを支えることについてお伝えしてみたいと思います。なじみのない施設ですが、この施設は問題行動を起こした子どもたちにとって、最後の砦とも言われている重要な更生施設です。管轄は法務省でなく厚生労働省の管轄で、「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行う」児童福祉法第44条に規定されている施設でもあります。
施設は全国に58ヶ所あり、国立が2ヶ所、都道府県50ヶ所、私立4ヶ所、社会福祉法人2ヶ所となっています。
ここに収容されてくる子どもの多くは、窃盗、不純異性交遊、薬物乱用、暴行、傷害など小学生から年長児まで様々な子どもたちが家庭裁判所や児童相談所から送られてきます。施設は、少年院や少年刑務所のように檻がなく、開放処遇が行われています。中でも大きな特徴とされていることが、「小舎夫婦制」といって、施設の職員夫婦が寮長、寮母となり10人~12人の子どもたちが擬似家庭をとり24時間起居をともにしながら、家庭的な温もりの中での生活を通して、子どもたちは自分の犯した痛みを取り戻し、再び過ちをおかさないように育ちなおしが図られています。矯正する施設とはまた違い、子どもに寄り添い″育ち〟を支援する施設つまり、ともに生きる関係性を大切にした施設でもあります。家庭の養育能力が低下した今、ここにやってくる子どもたちの多くはその犠牲でもあります。施設のおよそ7割の子どもは、成育過程において親からの虐待を受けて育った経験を背景に持ちながら問題行動を起こした子どもたちと言われており、改めて家庭のあり方、親のあり方が問われています。再犯率も低く、安心して子ども時代を過ごす場所のない子どもたちにとって家庭に代わる重要な場所になっています。言い換えれば、子どもたちが求めているのは、温もりのある安心して身を置くことができる居場所なのです。家庭の機能が十分になされていたならば、こういった施設は必要ないことでもあります。
収穫の秋に様々な実りがあるのは、環境と何よりも植物を育てる大地の豊かさがあるからです。肥沃な土壌には、多くの実りがあります。逆に痩せた土壌にはひ弱な物ができます。人の育ちもまた同じではないでしょうか。
子どもの育ちの基盤となる家庭という大地が温もりや愛そして人の育ちに必要な人と人との心の豊かさという栄養を持ち、その大地に安心して身をゆだね伸び伸びと子ども時代を過ごすことができるようならば子どもは、何もしなくとも健全に成長していくものです。子どもの最善の利益、発達権を守るためにも育ちの環境となる土壌を整え大人は、寄り添いながら支えて共に生きることが子どもにとって大切なことのように思います。
ご飯が美味しくたけていたなら、たとえおかずが粗末なものであっても、おいしいものです。子どもに外から何かを与えることではなく、人が育つ足元の部分を大切にしてあげることが重要になります。子どもは限りない可能性を持った種です。その種がやがてどんな実をつけ、どんな花を咲かせるかは全て大人の責任であることを私たちは忘れてはならないように思います。
実りの秋、みなさんはどんな実りを迎えましたか。
春日美奈子かすがみなこ
フリージャーナリスト
國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。
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