動機付け理論でもう一つ忘れてはならないのが、マグレガーの「X理論・Y理論」です。
「X理論」では、人間は働くことを好まず、責任を回避し、安全を希求するもの、ととらえます。すなわち性悪説です。それに対して、「Y理論」では、仕事で心身を使うのは人間の本性であり、尊敬や自己実現などの報酬を与えられれば、貢献し、責任を取り、創意工夫を行うものととらえます。すなわち性善説です。
マグレガーは、どちらが正しいと結論付けてはいません。しかし、その組織の管理者がどちらの理論を持つかによって、その組織はその理論にしたがうようになる、としています。これは、多くの管理職にとって意味の痛い指摘ではないでしょうか?
そして、これは「ピグマリオン効果」ととても関係があります。ピグマリオン効果とは、(上司の)期待は(部下の)行動に影響を与える、ということです。イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」の中で、主人公のイライザはこう言います。「おわかりでしょう。(ドレスの着こなしや話し方など)習ったり、覚えたりできることは別として、本当のところレディと花売り娘のちがいは、どう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるんです」。これがオードリー・ヘップバーンの「マイフェアレディ」のモチーフとなります。つまり、上司が、Y理論で部下に接すれば、部下はY理論で動くようになる、ということと同じです。
これには、有名な逸話があります。ある中学校に着任した数学の教師は、2つのクラスを受け持ちます。能力別クラス編成をしている学校で、1組には数学の成績優秀な子を集めており、2組には成績の劣る子を集めていました。ところが、新任の先生には逆の情報が与えられていました。1組の学生が小テストで良い点をとっても、「いいかおまえら、これはまぐれだ。こんなんでつけあがってるんじゃないぞ、おまえらは出来ないんだから」と先生はいつも彼らを見下すようにしていました。一方、2組の学生は悪い点をとっても、「いいか君たちは出来るんだ。こんな点を取るはずがないんだ。実力を発揮して欲しい」と熱心に励まし続けました。その結果、一学期の期末試験では、1組と2組の平均点が逆転した、という話です。
以前、AT&Tの委託を受けてMITの教授たちが行った調査では、昇進のスピードは各人がどれだけ入社時に期待されたかは、非常に高い相関関係があると結論付けています(0.72の相関係数)。一方で、部下の能力を超えた期待は逆効果になることも報告されています。ハーバード大学のマクレランド教授とミシガン大学のアトキンソン教授が行った調査では、期待とモチベーションの関係は釣り鐘状であり、成功の見込みが0%の時、そして100%の時にもモチベーションは0となり、まったく努力しなくなると。成功の見込みが50%の時にもっとも努力するそうです。
つまり、上司がひとりひとりの部下の能力を正しく把握し、それぞれにも最も適した目標を設定して、期待を掛けることが重要ということです。上司にはきわめて高度な目標設定力が求められるのです。上司のその能力が乏しいと、目標管理制度は有効に機能しないのです。
部下のやる気は、ひとえに上司次第ということですね。
小杉俊哉こすぎとしや
合同会社THS経営組織研究所代表社員
日本・外資系両者での人事責任者の経験を含む自身の企業勤務経験、企業へのコンサルティング経験、そして25年に渡るアカデミックな分野での研究を通じて、理論と実践の両面から他分野に亘り説得力のある話を展開し…
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