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2009年11月20日

「聞き方」の作法

【ある営業部マネージャーの悩み】                     
お客様の話をうかがうことはできるものの、単なる『御用聞き』になってしまい、
コンサルティングやご提案ができない社員が多くて困っています。       
相手のペースに飲まれず、かつ、こちらがイニシアティブをとれるような    
交渉術を身につけさせたいのですが…

先日、このようなご相談を人づてにうかがいました。
今回はこのお悩みにお答えする形で話を進めて参ります。

私は、仕事のできる人かどうかを判断するとき、話し方がうまいかどうかより、「聞き方がうまいかどうか」に重点を置きます。
話すときは、自分が決めたテーマを自分の作ったあらすじに沿ってしゃべるのですから、あらかじめ話す内容もわかっていますし、それなりの準備と練習で一夜漬けも可能です。
一方で、「聞く」というのは、相手が何を言い出すのか、どんな球を投げてくるのか見当がつかない。それをうまくキャッチして投げ返すには相当の技術と瞬発力が必要なのです。

ちなみに、カウンセラーの訓練の大半は傾聴訓練、つまり「聞くこと」に費やされます。私がカウンセリング心理学を修めた大学院の2年間、その後、精神科クリニックでの1年半に渡るデイケア勤務でも仕事の中で「聞くこと」が大きな比重を占めていました。

相手の話を聞くというのは、性能のいいマイクロフォンになるだけでは不十分です。音声をキャッチする、聞き取るのは基本ですが、同時に相手の感情を、声や表情、仕草から読み取る観察力が求められます。

そのためには、話を聞いている自分自身を観察する“もう一人の自分”の存在を意識の中に持っていなければなりません。今発せられている言葉の背景にはどんな意図が込められているのか。相手の抱えている問題はもちろん、それをどう解決したがっているのか。こちらにはその問題解決に対応するための資源がいくつあるのか。どのくらい有効なのか。客観的に読み取り、判断しながら聞かなければなりません。

一番いけないのは、まるで他人事のように「へえ、そうなんですか」というよう聞き方です。今、行われている会話は社交談話や世間話ではありません。先方の問題に対して、自分の会社には何ができるのか、そのための資源は何か、費用や期間はどれくらいかかるのか、といった”リアルな現実”を背負って話を聞いている認識を持つことが大事です。それを「商談」と言います。英語ではビジネストークと呼ばれます。

ビジネストークでの聴き方には作法があります。
まず「聴き方の作法」。その基本を軽く押さえておきましょう。

(1)メモをうまく使え

メモをとれるようでしたら取ることをおすすめします(相手がメモを残さないでほしいという場合もあるので確認が必要)。
一般的に、メモを取って聞いてくれると、話している方は聞き手の真剣度を感じて、しっかりと、簡潔に話そうという「伝えるモチベーション」がアップします。
聞き手にとっては、キーワードを探す上で何度も出てくる言葉を見つけるのに役に立ちますし、話の流れを俯瞰することもできます。また、相手の視線を適切に外すことも自然に行えますから、互いにリラックスできるというメリットも生まれます。
あとで忘れないためのメモというより、会話を促進させるための道具として有効だというわけです。

ただし、メモを取ることばかりに関心が行くのは避けなければなりません。中心はなんと言っても目の前で話をしている人をきっちり観察しながら相手の感情、話の意図を聞き取ることなのですから。

(2)うなづき・相づち

うなずきや相づちは思っている以上に重要です。
相手の呼吸、タイミング、間、内容を理解しながら聞けていないと、うなずきも相づちもできないものです。適切にできていれば相手の話を聞けていることになりますし、相手も次第に心を許して本音を語り出すことでしょう。

(3)繰り返しと要約

さらに、相手が強調したい言葉、キーワードを見つけたら、その言葉をそのままオウム返しにして返します
「社員の危機感が薄いんですよ」
「ほう、社員の危機感が薄いんですね」
または、「社員にもっと危機感を共有させたいんですね」と表現を少しだけ変えて、同じ内容を返す方法もあります。いずれも「あなたの話をちゃんと聞いてますよ」というシグナルを送ることになります。これも聞く上で最低限必要なことです。

また、相手がだらだらと堂々巡りのような話になったら、さりげなく話を簡潔にまとめるお手伝いをします。これを要約といいます。
「なるほど。社員のモチベーションを上げる努力を、運動会や、旅行会、と折々になさってきたのに効果が上がっていない気がするとおっしゃるんですね」。
しっかり聞いて、適切な要約ができると、相手のこちらへの信頼は急上昇するものです。逆に、とんちんかんにまとめると、「まるでわかっていない」、「今まで私がこんなに一生懸命話していたのは何だったんだ」と相手に徒労感だけが残ってしまい、話す気を失わせてしまいます。だから「聞くことは、真剣勝負」なのです。

(4)疑問や質問は整理して聞く

メモ、相づち、うなずき、繰り返し、要約、という基本的「聞く姿勢」を取りながら忘れてならないのは、自らの中に常に問いを発し続けていることです。よく言われる「5W1Hで聞け」というのがそれです。

とはいえ、「誰がですか?」「いつですか?」「どのようにですか?」「またどうして?」と質問攻めにすれば相手は気を悪くして話す意欲を失います。自分の心の中の疑問を整理する上で5W1Hを利用せよといっているのです。これは、行き当たりばったりの無手勝流で聞いて、何が問題なのかを捉えられなくなることを防ぐ方略になるのです。

もちろん、「これは聞いておかなければ」という重要なポイントを、口に出して直接聞くことをためらってはいけません。質問するときは、質問する意味をしっかり認識した上で質問すること。「なぜ、そんなこと聞くんですか?」と言われたとき、「実はそのことを伺えば、こんなことが提供できるなと思いまして」と即座に答えられる質問でなければなりません。

このように、心の中に常に問いをたてながら、時折、必要な情報を質問することで入手しなが
ら解決策を模索する聞き方を「積極的傾聴」と言います。傾聴の中で浮上した問題につき、話を深め、確認をした上で、初めてこちら側が提供できるサービスの内容と相手の抱える問題とのマッチングに成功するのです。
コンサルの半分以上は、相手の抱えている問題を明確化すること。双方で問題認識が一致できれば、解決策について提供すべき資源を提案できるようになります。

単なる「御用聞き」になってしまったり、「巻き込まれて、何が何だかわからなくなってしまう」のは、積極的傾聴ができていないのが原因です。インタビューの中で、広角レンズ、望遠レンズ、接写レンズ、そしてズームレンズをうまく使いこなすこと。言わずもがなですが、自らが提供できる資金、技術、材料、ノウハウ、人脈など、資源について熟知しておくことは大原則です。

すべての武器を携えて商談の場に赴き、積極的傾聴で問題点をあぶり出し、自社の資源とマッチングさせ解決に向かうことで商売にしていく。この一連の流れを、社内での研修でロールプレイしておくことも必要かもしれません。

「聴き方の作法」を学んでおくことがビジネス成功の鍵であることは間違いありません。

梶原しげる

梶原しげる

梶原しげるかじわらしげる

フリーアナウンサー

1950年生まれ。神奈川県茅ケ崎出身、早稲田大学法学部卒。文化放送にアナウンサーとして入社。92年からフリーとなる。 バラエティーから報道まで数々の番組に出演し、49歳で東京成徳大学大学院 心理学研…

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