【今月の経済講師】
高野孟/インサイダー編集長
通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に、情報誌 『インサイダー』の創刊に参加、80年に株式会社インサイダーを設立し、代表兼編集長に。1994年に株式会社ウェブキャスターを設立、インターネットによるオンライン週刊誌『東京万華鏡』の編集・執筆 に従事。2002年に早稲田大学客員教授に就任、「大隈塾」を担当。
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「日本は「モノづくり資本主義」で行く!」
強欲金融資本主義が破綻して、米国はこの先どうやって生きていくのか、アイデンティティ喪失状態に陥っていて、オバマ大統領がいくら賢くてもこの答えを見いだすのは難しい。となると、つい先日まで「米国に付いていけば大丈夫」と米国流グローバリズムの後追いばかりしていた日本も、ここで発想を入れ替えて、「米国はどうなさるつもりかは存じませんが、日本はモノづくり勤勉資本主義の王道を歩みます」と宣言して、技術力を活かしてアジアと世界の繁栄に貢献する日本流グローバリズムを追求しなければならない。
評論家の中には、米国がこんなことになって米消費不況はいつ晴れるとも知れず、そうなると輸出、それも主として米国向けの輸出に頼ってきた日本のモノづくり企業はお先真っ暗だから、これからは福祉や環境や農業など「内需」の新分野に目を向けて成長を計らなければならないと言う人がいるが、私はそれには反対である。
まず第1に、日本の輸出の対GDP比は15~16%程度で、先進諸国の間でもアジア諸国の中でも格段に低い。第2に、輸出の仕向先では米国は確かに20%を占めるが、中国・香港・台湾を合わせた大中華はそれを上回り、それを含めたアジア向けが53%を占める。米国への輸出が減ったら日本は死ぬというのは昔の話である。第3に、もっと重要なのは輸出の中身で、かつては日本は家電、乗用車など大量生産型の耐久消費財を世界中に売りまくったが、今では輸出総額に占める耐久消費財は20%にも達せず、部品、生産設備、ハイテク工業素材など広義の資本財が70%を占めている。これらの多くは、日本でしか作れない、他でも作っているけれども日本のものが格段に質が高いなど、日本人の飽くなき探求心と丹精込めたモノづくり精神の結晶のような高度なもので、世界中の人々が自国でいいもの(消費財)を生産して輸出しようとすれば、それら日本の高度資本財を買わざるを得ない。しかも面白いことに、この資本財供給の戦線には大企業ばかりでなく中小企業、ローカル企業、町工場までが参加して、日本のモノづくりの心意気を示している。
このモノづくりパワーによって、アジアにはすでに日本を頂点とする垂直分業が成り立っていて、それを韓国のサムスン電子の李潤雨CEOは「日本が製造装置や素材を作り、韓国が電子デバイスを作り、中国が組み立てる。日韓中は”有機共同体”だ」と言っている(9月11日付日経)。同じことを黒田東彦アジア開銀総裁は「東アジアの巨大なサプライチェーン」と呼んでいる。日本はこの生産実態に枠組みを与えるものとして将来の「東アジア共同体」を形成し、それを歯車として21世紀の中印露欧4極を中心とするユーラシアの大繁栄にモノづくりで貢献する。そうすれば、アジアそしてユーラシアの域内需要のすべてが日本の「内需」になるはずである。昔の経済観念に囚われて、狭く内向きに内需探しをしているようでは、日本の21世紀の生き方は見えてこない。
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