調子が悪い時、厳しい状況の中でどれだけ踏ん張ることができるか。野球に限ったことでなく、そういう時こそ、人間の価値が問われます。調子のいい時は10の力を出せても、調子が悪くなると5まで力が落ちる選手と、いい時も8だけど悪い中でも何とか7で踏みとどまる選手がいるとします。こういう場合、僕が監督なら間違いなく後者への信頼が大きくなります。これは計算が出きるからです。
こういった話をすると真っ先に思い出すのはやはり田中将大(楽天イーグルス)です。彼は調子が悪くても、その中で気持ちを切らさずにベストの結果を出せる代表的な選手です。覚えている人も多いでしょうが、2006年夏の甲子園は、フォームを崩し、本当に苦しい中での戦いでした。その上、周囲からの期待はものすごく高かった。そんな状況の中でもプレッシャーに押し潰されることなく、チームのために粘り強いピッチングを続けました。
そして、凌いで、凌いで勝ち進み、最後には、早稲田実業との決勝戦でその夏のベストピッチングをやってのけたのです。普通のピッチャーならあの状態で甲子園にまでは出場出来ても、まず決勝までは勝ち進めなかったでしょう。まさに田中将大の人間力、底力を感じさせられた戦いでした。そうした強さを持っているからこそ、プロでも1年目から先発ローテーションを守り、あれだけの活躍ができたのです。
調子のいい時は気分も乗っているし、誰でも頑張ることができます。でも、本当の意味での人間の評価は逆境の時に問われます。厳しくても、そこで踏ん張れる自分を求めていくことが周囲の信頼にもつながるのです。
奥村幸治おくむらこうじ
ベースボールスピリッツ代表
イチロー選手が210安打を達成した時に、イチロー選手の専属打撃投手を務めていたことから“イチローの恋人”としてマスコミに紹介され、以来コメントを依頼されてのテレビ出演多数 。 1999年に中学硬式野…