改修がデメリットになることも……
私の講演では、介護にまつわる衣食住の話を、具体的な事例をまじえて話す機会がしばしばあります。
ここでは住まいをテーマにお伝えしましょう。
世代によって住まいに求めるものは違うと感じます。若い世代は住まいを選ぶとき、エリアや間取りなど、自分たちの居心地のいい仕様を求めます。しかし、高齢になると、住まいをいかに自分の体の機能や生活に対応させていくかが重要となります。
高齢になって身体機能が低下したり、事故で体が不自由になったときに考えるのが住まいのバリアフリー化ですが、私はご本人の体が不自由になり、住まいに不都合が生じた時点で検討をすることをおすすめしています。
バリアフリーの機能があらかじめ備わった住居を選んだり、老後に備えて手すりの設置や段差の解消などを施したけれども、結局そうした機能を使わないでいる例もたくさんあるからです。
本来であれば必要でない部分に手すりをつけたことでそれに体をぶつけてしまったり、何十年も使ってきた開き戸を引き戸に変えたことで、手をはさんでしまいそうになった事例もあります。
ちなみに、以前取材した施設で、認知症の女性がその施設に滞在している間に、ご家族だけで改修を決めてしまったことがあり、施設の関係者が首を傾げていたことがありました。ご家族はよかれと思ってしたのかもしれませんが、その結果、要介護者の症状が悪化したり、家族関係が悪化することもおこりがちです。
認知症の方が家庭的な雰囲気のなかで生活する「宅老所」などを取材すると、上がり框やまたぎの高い浴槽などがそのまま使われています。
とくに認知症の方の場合、機能的には不便な点があっても、住み慣れた雰囲気が変わることで、不安を感じ、落ち着かなくなることもあります。
住宅を改修する工事は費用がかかることもあるので、介護が必要であると認められた人は、介護保険を上手に活用し、必要に応じて改修することをおすすめします。
介護保険では、介護が必要な状態のレベルに関わらず、上限額の20万円までであれば、1割の負担で住宅改修の工事ができます。
心にバリアはありませんか?
先述のとおり、ご本人の体の状態に応じて住まいを変えていくことは大切ですが、加えて、暮らす方全員の快適さを考えることも重要です。
我が家も車いすで外へ出るためのスロープをとりつける工事を検討したこともありましたが、結局、家族の利便性も考え、使用しないときは折りたたんで保管できるスロープをレンタルしました。
介護保険では福祉用具がレンタルできるサービスもあります。福祉用具の活用で住宅改修が不要になることもあるのです。
一方、住まいの外、街中に目を移すと、最近ではエレベーターを設置する駅や体が不自由な人にも使いやすいトイレが増えました。
しかし、体が不自由な人に対して、私たちの心のなかにバリアはないでしょうか。それは精神の病をもつ人に対するまなざしについても言えること。
真のバリアフリーとは、私たち自らが自分の心を客観的に見つめ直すことから始まるのではないでしょうか。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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