キャピタルフライトでお金が逃げ込んだ最大の国が中国だ。中国は13億人のマーケットを売りにして、90年代後半から欧米日からの投資を呼び込み外貨をたっぷり貯め込んできた。今回の世界金融危機の影響はほとんど受けず、むしろそれを良いきっかけとして、沿岸部と内陸部の格差を是正すべく、巨額の財政出動をして社会インフラ整備を中国全土で行い始めた。これで中国はまぎれもなく本格的な経済成長期に突入したといえる。また、金融コントロールも非常にたくみだ。中国には兌換の自由がないので、稼いだ元は中国で再投資するしかない。したがってキャピタルフライトも起こりようもないので、バブル崩壊の危機も今のところない。
また、金融引き締めもアクセルとブレーキをこまめに使いながら、現在は過熱している不動産価格の上昇を抑えるために融資の制限を実施している。元の切り上げにも慎重かつ上手に対応している。そういう意味では今、一番安全な国は中国といえよう。
しかし、中国だけでは欧米から逃げてきた世界のマネーを吸収しきれない。中国にはすでに進出している企業も多いが、中国でのビジネスは決して外資に有利とはいえず、必ずしも利益をあげている企業ばかりではない。文化がまったく違う中国で商売するにはそういった難しさやストレスも同時に受け入れなければならない。
そこで、他のアジア諸国を眺めてみると、特にインドネシアは日本が投資をする先として非常に面白い国であると感じている。
その理由のひとつは「親日」であるということ。
インドネシアにとって日本は過酷なオランダ支配から開放してくれた国でもあり、台湾と同じく、戦中に教育やインフラ整備などの国づくりに貢献したことで、悪い印象を残していない。戦後も積極的にODAという形で支援をしてきた。資源国のインドネシアは資源を持たない日本にとって非常に大切な国である。
先日インドネシアに取材に出かけたが、そこで日系企業と合弁で会社を経営している現地人社長に話を聞いた。
「日本はインドネシアの土地を耕す手伝いをして、種をまいて、さあいよいよ収穫だというこのタイミングで、韓国勢がその果実をすべて持っていこうとしています。これは由々しき問題なのです」。
韓国勢が優勢だというのにはわけがある。
97年のアジア通貨危機の際、タイ同様、インドネシアもヘッジファンドによる通貨の空売りをしかけられ、IMFから230億ドルの支援を貰うことになった。結果、インドネシア経済は破綻。インフレーションになり失業者が街にあふれ、暴動も起こった。その時に、日本企業の多くがインドネシアから逃げ出した。その隙間を埋めるように、韓国勢が入ってきたというのだ。
「韓国勢は凄いです。ライバルの日本企業がいないところに進出して、莫大な資金を投入して集中投資で一気にシェアを取ってしまうのです」
日本企業の独壇場だったはずのインドネシアでも韓国勢の攻勢は激しく、空港、高速道路サイドの看板、街の電気店でも「サムスン」「LG」のロゴマークがいたるところにあり、これでもかと言うほど目立っている。日本メーカーの看板を探すのが難しいくらいだ。
さらに韓国勢のすごいところは、現地のニーズを商品化するスピードだという。
「インドネシアではまだ冷蔵庫の普及率は30%、ワンドアのものが主流なのです」
一般家庭でも冷凍庫で氷をつくって売って生活費の足しにしているなど、思いもよらないニーズがあるのだという。また、洗濯機は8%の普及率。これも2層式のものが主流で、スコールが多いこの地域ではびしょびしょになった服をそのまま脱水層に入れて乾かすのだという。洗濯に使用する水も雨水をためたタンクからバケツで運んできて使うというやり方だ。
そうなると、日本で売られているハイスペックなシロモノ家電は、こちらのニーズにはまったくあっていない。韓国勢はそうしたニーズを吸い上げ商品化して、低価格で販売しているという。
先行する韓国勢に追いつこうと今、頑張っているのがパナソニックだ。これまでの本社主導の商品開発から、現地に思い切ってカネと権限を与え、商品開発から製造までまかせていく戦略に変わった。本社での商品開発は2年も3年もかかるので、タイミングよく商品を市場に出すためには現地で商品開発をやっていくしかないという判断だ。
このように書くと簡単なことのように思えるかもしれないが、実は大変難しいことだ。1ルピアを削りながらコストの安い冷蔵庫や洗濯機を作ることは、現地の部品工場とのハードな交渉が必要になる。それは信頼できるローカルの社員を育てて任せるしかない。また、どこまでやったら品質に問題が生じるのか、ぎりぎりのラインを探りながらの商品開発は非常にリスキーでもある。発火でもしたら信用を失いブランドが損なわれる。それこそ本末転倒になりかねないので、本社としては現地開発はやって欲しくないというのが本音だ。しかし、あえて今回はそこに挑戦している。それこそが日本メーカーに足りないところなのだ。さらに、新興国の商品は販売単価が安いので、売り上げ目標でなく、シェアで評価されることになったという。そうした本社の決断により、ローカルのスタッフも含め、現地で大変モチベーションが上がっているという。
親日国であるインドネシア。政治も経済もまだ様々な問題を抱えている国ではあるが、人口が2億3000万人、最低賃金が月額1.2万円、5%の経済成長が数年先まで予測されている巨大なマーケットであることは間違いない。
インドネシア人の日本に対するリスペクトは想像以上。彼らは日本からの投資を心待ちにしている。このインドネシアの価値をどうとらえ、どうコミットするかは日本次第だ。
内田裕子うちだゆうこ
経済ジャーナリスト
大和証券勤務を経て、2000年に財部誠一事務所に移籍し、経済ジャーナリストの活動を始める。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動後、BS日テレ「財部ビジネス研究所」で「百年企業…
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