中二のA子の携帯電話に、見慣れないアドレスからメールが届いた。「二年の男子一同はみんな、お前のことを気持ち悪いと思っている」
「何これ?」ゾッとした。担任と母親に知らせたが、差出人が匿名のため、犯人は見つけられていない。A子はいまも、校内で誰かに観察されている不気味さを感じる。
ネットいじめに多用されるのが携帯メールだ。「死ね」「消えろ」といった文言が並べられたメールが、繰り返し送り付けられる。24時間、放課後でも夜中でも送られてくるため、被害者は常に針のむしろに座らされている気分から逃れられない。
文字のみのコミュニケーションでは、発信者は面と向かっては言えないことでも言いやすく、表現がエスカレートしがちだ。受信する側も、送られてきた内容は冗談なのか本気なのかがつかめない。目の前で笑いながら「キモ~い」と言われるのと、文字で「キモい」と書かれるのとでは、受け取る印象が大きく異なる。「文字だと形に残るから、辛さが倍増する」とB子は言う。
「チェーンメール」で悪口を一気に回すいじめ方もある。いわゆる「不幸の手紙」のメール版だ。特定の人物に対する悪口と共に「このメールを今日中に10人に転送しないと、あなたの家に誰かが侵入する」などと書いたメールを周りの人に回す。不安に駆られた子どもたちが転送すれば、その悪口は一日で数百人に広がってしまうのだ。だが実際は、転送しなかったからといって自分のメールアドレスや名前がばれることはない。もし受け取ったら、速やかに削除するのが一番だ。
こうした中傷メールは、本人の目の前でやり取りされることもある。例えば、授業中にある生徒が発言したら他の生徒が机の下で携帯を操作し「アイツの発言、KY(空気が読めない)だよな」とクラス中にメールを一斉送信。生徒たちは「ウザいよね」「無視しようぜ」などと返信し合う。休み時間に入る頃には、発言者は新たないじめのターゲットに仕立て上げられているのだ。
ネットいじめの被害にあうのを避けるため、子どもたちは周囲と言動を揃え、「空気を読む」ことに神経をすり減らさざるを得ない。これでは個性など育たないだろう。「出る杭を打つ」という大人社会の風潮が子どもの間にまで浸透し、窮屈な思いをさせているのではないか。
渡辺真由子わたなべまゆこ
メディアジャーナリスト
放送局報道記者として、いじめ自殺を取材したドキュメンタリー「少年調書」で日本民間放送連盟最優秀賞など受賞。その後カナダのメディア分析所に留学し、メディアリテラシーを研究。 ニュース記者としての長年の…
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