そもそも「認知症」って?
一口に「介護」と言っても、介護保険制度に関することから介護する人が抱えている問題に至るまで、さまざまなテーマがあります。依頼の多いテーマのひとつが、「認知症」についてです。
厚生労働省の推計では、2015年には認知症の高齢者(65歳以上の人)が250万人となり、今後、誰にとっても身近な問題となりえます。ひとり一人が認知症について学ぶ必要がある時代が来ているのです。
そもそも、認知症というのは、どのような病気なのでしょうか。
例えば、新しいテレビを買う場合、私達はどんなテレビを買うか、条件をあげ、情報を集め、値段を比較してから買います。認知能力とはこのように情報を集めて分析し、判断する力のことです。
認知能力をつかさどる機能は脳の神経細胞が行いますが、神経細胞が障害を受けると認知能力が低下します。これが認知障害で、障害が大人になってから生じるのが認知症です。
認知症の原因となる病気は約70種あるといわれます。そのなかでも最も多いとのがアルツハイマー病と脳梗塞や脳出血がおもな原因で起きる脳血管性の認知症です。
そのほか、交通事故で脳に外傷を受けたり、アルコール中毒などもあげられます。
認知症ともの忘れとは違います。
例えば、友達とレストランに行き、後日、家族に「あのとき食べたあれはおいしかったのよ」と話したとします。そのときに注文した料理の名前が出てこない。これはもの忘れです。一方、認知症は友達とレストランに行った記憶自体がすっぽりと抜けおちてしまいます。
増える「認認介護」
私は全国の特別養護老人ホーム(以下、特養)やグループホーム(9人程度の少人数の利用者が、家庭的な雰囲気のなかで、買い物や調理などの役割を果たしながら生活する)などの取材をしていますが、最近はいろいろな試みを認知症のケアにいかすところが増えています。
都内のある特養では、奇声をあげる認知症の女性を前に、叱りつけるのではなく、童謡を歌って聞かせました。すると認知症の女性も一緒にその歌を歌いはじめ、いつしか症状が穏やかになっていたことがありました。
東北にあるグループホームには菜園がありました。この菜園で認知症の女性が嬉しそうに大根をほっていました。たずねたところ、彼女はこれまで農家で働き続けてきたそうです。彼女にとって、認知症となっても、体をつかって農作業をしてきたという誇りは、いつまでもその心身に宿っているわけです。
認知症の高齢者が子ども、あるいは犬などのペットと交流をはかっている施設もあります。高齢者のなかには「なんの役にも立たないから早く死にたい」と思う人もいます。しかし、子どもやペットとの交流を通じて、高齢者自身も何か自分に手伝えることがあるのではないかと、ある施設の責任者が話していました。
一方、在宅介護の現場では「認認介護」(夫婦ともに認知症で、一方が被介護者であるような場合)のケースも増えており、問題となっています。2005年には、認知症の姉妹が被害に遭ったリフォーム詐欺事件が起きており、こうした被害が今後増えることも懸念されます。
現在、各自治体などでは認知症の人や家族のさりげない応援者となる「認知症サポーター」を増やす取り組みを行っています。
そばにいて生活の援助をすることだけが介護ではありません。一人暮らしの高齢者が近くに住んでいたら異変がないか気をかける、遠く離れた距離に住んでいる親が元気でいるか連絡をとってみる。
こうした小さな心配りも、「介護」だと言えるのです。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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