まずは整理整頓。基本的な心がけが大事
今年9月、バンド「クレージーキャッツ」のメンバーでタレントの谷啓さんが自宅の階段でつまずいて病院に運ばれ、その後死去したニュースがありました。
このとき私はある番組からの依頼で、住宅内で起きる転倒・転落事故ついてコメントしました。
事故というと、道路や海・山・川などの自然環境で発生しやすいとイメージしがちですが、平成20年に国民生活センターが発表したデータによると、事故発生場所の1位は住宅(敷地内を含む)なのです。年齢が高くなるにつれ、その割合は高くなっています。
家庭内での事故発生場所としては、「居室」「階段」「台所」が多いのです。
「居室でなぜ?」と思われる方もいるかもしれませんが、60代の女性が配線コードにつまずいて転倒し、胸部を骨折し重傷となった事例もあります。
最近はパソコンなどの使用によって、配線コードや延長コードが増えている家庭が多いようですが、U字型のクギやフックを使って壁に這わせたり、配線カバーを利用するなどの処理が思わぬ事故の予防策になりえます。
紙一枚でもうっかりその上に足を滑らせて転倒する可能性もなきにしもあらず。居室は整理整頓をし、つまずきそうなものは置かないようにする、すべりやすい靴下やスリッパは避けるといった基本的な心がけが大事だと自戒をこめて書き添えておきます。
ちなみに、転倒は「たまたま」まわりの状況が悪かったからという原因だけで生じるものではないことが近年の研究によってわかってきました。
大別すると、内的要因、外的要因があり、内的要因としては、視覚、バランス、歩行、筋力や骨、心臓や血管の変化など加齢に伴う変化、急性疾患や慢性疾患などの病理学上の変化、薬による副作用などがあげられます。
外的要因にはまわりの環境や設備、杖、歩行器、などの歩行補助具が原因となる場合があります。
高齢者がいる家庭の場合、動作中にバランスをくずしやすい玄関や脱衣所に小さな椅子を置いたり、階段・廊下・玄関・浴室などには手すりを設置する、階段にすべりどめシートを貼る、階段・廊下・玄関などに照明や足下灯をつけるなどの予防策を講じる方法もあります。
ただし、その場合にも注意点があります。階段を上りきったところで油断して転落……。こうした事態を防ぐためにも、例えば階段に手すりを設置する際にはステップのない始まりと終わりの部分にも水平に設置したほうが望ましいといえます。
また、照明を設置する場合も、白内障の人などは明るい光をまぶしく感じることがあるので、その人に応じた明るさに調節することが必要になります。
業者はこのような住宅改修を数多く行っているところを選ぶのが望ましいでしょう。
とくに冬場は「温度のバリアフリー」にも気遣って
高齢者の家庭内における事故で、死亡にまで至るケースは、浴槽で熱い湯に浸かったなどの「火傷」が原因であることが多いのも特徴です。
家庭内での事故発生場所として「浴室」もまた注意が要な場所といえます。浴槽内や洗い場ですべって転倒する可能性もあるほか、湯あがりに脱衣所のマットで滑って転倒する可能性もあるので油断は禁物です。
さらに、高齢者の場合は「温度のバリアフリー」にも配慮したいもの。温かい居室から移動して寒い脱衣所で服を脱ぎ、続いて熱い湯に浸かるという動作は、短時間で血圧の振幅が激しく動くことになり、体に大きな負担がかかります。そのため意識障害や湯あたりが生じて事故につながる危険性が高くなるというわけです。
以下は、私自身の経験からおすすめできる温度のバリアフリーのアイデアです。
○室温差をなくすために小型のヒーターなどで脱衣所を温めておく
○給湯の際にシャワーを使うことで浴室を温めておく(このとき、浴室に入る扉を開けたままにしておくと、浴室と脱衣所との温度差も縮めることができる)
○高齢者は浴室内が温まる二番風呂に
冬場の入浴中の急死者の数は夏の3倍になると言われます。
とくにこれからのシーズン、高齢者と同居している家族の方は気遣いを。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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