社会に出て非常に役立つ処世術に「YES、BUTの精神」があります。
この処世術をうまく使うと、人間関係は思いのほかスムーズになり、仕事もしやすくなります。
とても便利ですので覚えておいてください。
おすすめの使い方は大きく分け2つあります。
ひとつは新入社員向け。
脅かすわけではありませんが、社会に出ると途端に「自分とは考えが違う」と感じる瞬間が増えます。
上司は「Aが正しい」と言うが、自分は「Bが正しい」と思う。
こういったシーンにたびたび直面するようになります。
この時に、「YES、BUTの精神」を使うのです。
つまり、上司に対してはとりあえず、「はい(YES)、わかりました」と答えておき、
心の中で「でも(BUT)、あなたの言っていることは断じて違っていると思う」とつぶやいて、
ことを収めるのです。
社会に出ると、なぜ、「自分とは考え方が違う」と感じる瞬間が多くなるのでしょうか。
理由は、学生時代と違って、価値基準の異なる、
幅広い世代とコミュニケーションを取らなければならないからです。
上層部を占めるのは50代60代、中堅の管理職は30代40代で、
直属の上司や先輩は20代という会社がほとんどでしょう。
顧客の年代もさまざまです。「世代間ギャップ」という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、
実際、世代によって価値観にはかなりの差が出ます。
たとえば、バブル時代に青春時代を過ごした世代は、「ブランド志向が強い」とか、
景気が低迷したバブル期以降に青春期を過ごした世代は、
「仕事よりプライベートを優先する傾向がある」など、
世代によって特徴がありますし、個人によっても価値観は異なります。
きちんと今の世の中に合った基準で物を言う人もいれば、昔の基準で話をする人もいます。
人によっては、自分の価値観を押し付けてくる人もいます。
基本的には、いろいろな価値観を持っている人がいる、と考えて間違いありません。
その中で、大学を出たばかりの新入社員が
「いや、自分はそうは思いません」と主張していては角が立ち、話が先に進みません。
そもそも会社や仕事そのものがよくわかっていない時期ですから、
まずは、相手の価値観について学ばせてもらう姿勢が大切です。
先ほども言ったように、「違う」と思っても、「はい、わかりました」と言いながら、
心の中で、「正しいのは私だ」と思っていればよいでしょう。
それによって、自信をなくさずに済みますし、理不尽さに耐えることもできます。
ただ、入社後、1、2年経ち、ある程度、会社の様子や仕事の内容がわかってきたら、
今度は自分の意見をきちんと言うことが求められます。
赤城乳業では、年齢や肩書を超えて、何でも自由に「言える」関係を大切にしています。
前社長の井上秀樹は、風通しのよいオープンな雰囲気の中、
自由になんでも言えることが、組織の活性化につながるという信念を持っていました。
そこで、「言える化」という言葉を生み出し、組織作りの中で実践しているのです。
役付きの社員に対しても、上司に対しても、自由に発言できる社風そのものが、
ひとつの原動力となり、新しい商品がどんどん生まれているのです。
たとえば、『ガリガリ君リッチ コーンポタージュ』(通称「コンポタ」)。
2012年9月4日に発売になると、「レンジでチンして飲むとおいしい」など、
ソーシャルメディアで話題になり、爆発的に売れました。
予想外に売れ過ぎて製造が追いつかず、3日で発売休止になったほどです。
この商品開発を手掛けたのは、入社2年目の若手社員でした。
「スープ味のアイス」という奇抜なアイデアに、社内からは「ちょっと冒険しすぎなのではないか」
という意見が出たり、味見の段階で「味が新しすぎる」といった声も上がりました。
しかし、「コーンポタージュ味のアイスはいけるんじゃないか」という若手社員の強い思いがあり、
当時の井上秀樹社長の「普通のものはたいして売れない」という信念の後押しもあって、
販売に至ったのです。
新入社員のうちは素直に先輩の意見を「YES」と聞きながら、
2、3年後は、きちんと自分の意見を言えるようにしておきましょう。
「YES、BUTの精神」の2つ目の使い方は少し上級編です。
相手を傷つけずに、自分の意見を伝えていく時に役立ちます。
私は講演で日本全国を回っていますが、質疑応答の時間に「私は『ガリガリ君』の○○味が大嫌い。
なぜ、あんな商品を作ったのですか」という質問をいただいたことがあります。
そこで、もし、私が「いえいえ、あなたはそう言うけれど、○○味はよく売れているし、おいしいですよ」と
頭ごなしに相手を否定しては、質問してくださった方も気分を悪くしますし、場の雰囲気も重くなります。
答え方として、「そうですね(YES)。たしかに、お客様によっては『この味、苦手』
っていう方がいらっしゃる。ただ(BUT)、一方では、大好きとおっしゃる方もいるんですよ」といえば、
相手は受け入れられたと思って顔が立つし、場の雰囲気も悪くならない。
自分の言いたいこともうまく伝えられるわけです。
「YES、BUTの精神」を身に付けておくと、社会でのコミュニケーションがうまくいくでしょう。
鈴木政次すずきまさつぐ
“ガリガリ君”の開発者そして育ての親
1946年 茨城県出身。1970年 東京農業大学農学部農芸化学科 卒業後、赤城乳業株式会社に入社。1年目から商品開発部に配属される。愛すべき失敗作を生み出しながらも、「ガリガリ君」、「ガツンとみかん」…
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