播州赤穂、浅野藩の元家老・大石内蔵助は平素、「昼行灯」(ひるあんどん)とバカにされながら、実は、人材を集め、最も強力なチームをつくり、一致団結を図り、各自の能力を全開させ、目的を確実に達成させた「人材活用の達人」でした。
1702年(元禄15年)12月14日夜。内蔵助は赤穂浪士である同志とともに集結します。そこでまず、「孫子の兵法」、「甲州流兵学」の流れを汲む「山鹿流兵学」に基づき、秘密裏に周到に組み立てた「陣立て」を明かします。
四十七士は、副頭領・作戦参謀役の吉田忠左衛門(63歳)という長老をはじめ、堀部安兵衛(34歳)、最年少の大石主税(16歳)まで、「老壮青」の世代によりバランスよく構成されていました。内蔵助は、「東西に両門があるから、我が組を2つに分けて、追手、搦手(からめて)として差し向かうべし。24人を表門の東組とし、我これを率いるべし。23人を裏門の西組とし、主税これを司るべし」と各々の特性を生かしつつ、結束して事に当るよう命じています。
四十七士のうち、表門から討ち入る東組は、3人1チームの計8チームで1隊、裏門から討ち入る西組は、3人1チームの計7チームで1隊の2隊編成とし、そのうえで、内蔵助は「3人1組は一身の如く、勝負に及んだ助け合い、他を罷り見ることあるべからず」と念を入れています。
一糸乱れず動けるチームは、10人以下の小さな群れが限度です。内蔵助は、3人1チームに分けました。一種の「セル(細胞)」です。各セルが、各現場で臨機応変、自主的に状況判断し、決断・実行していく。現代流に言えば、それぞれに大きな権限を委譲する「クライアント・サーバー型組織」をつくったのです。そして、3人が一心同体、まさに心を一つにして1人の敵を相手に戦い、互いに助け合いながら、敵を確実に討ち取っては、次の敵に立ち向かっていくというように、それぞれの群れがそれぞれの意志を持ち、群れ同士が協力しながらシナジー効果(共同作業)を出していく。常に複数のビジネスラインを持ち、しかも、それらが相乗効果を持てるような陣形をつくり上げたのです。ビジネスラインが一つコケても、他のラインで十分にカバーして本体は絶対に倒れないというリスク分散のための準備をしておいたとも言えます。
内蔵助は戦闘時間について「15日午前4時半ごろ、江戸本所の吉良義央邸に討ち入り、卯の刻(午前6時)までに吉良の首を上げる」と指示します。制限時間は1時間半、夜が明ける前までに勝負しなければならない。夜が明けると、江戸町奉行所、敵である上杉藩に知られ、面倒なことになるからです。赤穂浪士は、手筈通り、お互いを助け合いながら奮戦します。この末に、吉良上野介の首をはね、仇討を果たし、見事本懐を遂げたのでした。
この赤穂浪士の忠義と奮戦ぶりを見習ったのが、江戸幕末、主に京都で活躍した新選組でした。厳しい「掟」の下、京都市中の治安維持にあたりました。
近藤勇局長以下、隊員が着用した隊服の山形模様は、俗に「だんだら模様」とも言われていました。「忠臣蔵の義士が討ち入りに着用した装束のように、服の袖を染め抜いた」のです。袖章もやはり「だんだら模様」でした。近藤勇らは、忠臣蔵四十七士を「理想の武士」と捉え、自分たちの姿にオーバーラップさせて、羽織のデザインにそのイメージを重ね合わせたようです。「仮名手本忠臣蔵」は当時でも大変な人気芝居の一つで、近藤たちは、京都守護の「忠義の武士」の集団であることを京都の民衆にアピールしようとしたと思われます。
新選組は、局長・近藤勇、参謀・伊東甲子太郎、総長・山南敬助、副長・土方歳三ら幹部24人、伍長20人、平隊士100人以上の総勢150人前後。近藤は、これを1隊10人規模の武力チームと監察チーム(情報機関)に編成し、京都市中見回りと、探索活動に当たらせました。
1番隊長・沖田総司、2番隊長・永倉新八、3番隊長・斉藤一、4番隊長・松原忠司、5番隊長・武田観柳斎、6番隊長・井上源三郎、7番隊長・谷三十郎、8番隊長・藤堂平助、9番隊長・鈴木三樹三郎、10番隊長・原田左之助、諸士調役兼監察・山崎烝という配置です。
山崎は、勤皇の志士たちが「京都を火の海にし、天皇を長州に連れ去る」という企てをキャッチし、近藤、沖田、永倉らわずか4人が三条大橋河原町近くの旅館「池田屋」に踏み込み、計画実行を未然に防ぎます。新選組が幕末最強の「プロジェクト・チーム」となり得たのは、近藤勇が天然理心流道場主、原田左之助(10番隊長)が種田流槍術、山崎烝が鍼医師で香取流棒術のそれぞれ使い手だったように「武道のプロたち」を集めた賜物でした。
忠臣蔵と新選組に共通する特徴は、次の3つのポイントに集約されます。
(1)血盟的団結心(一致団結)
(2)少数精鋭的組織活動(一糸乱れない行動)
(3)戦略的情報収集管理(一点集中的情報活動)
企業は、プロの集団によるチーム力と団結力を強化すれば、強靱になります。現代経営者は、「お主、できるな」と唸らせるようなプロを多く雇い、「できる男」や「できる女」を集めて、チーム編成し、「プロジェクト集団」として使いこなせば、最も効率よく、実績を上げることができるのです。
板垣英憲いたがきえいけん
政治経済評論家
元毎日新聞記者、政治経済評論家としての長いキャリアをベースに政財官界の裏の裏まで知り尽くした視点から鋭く分析。ユーモアのある分かり易い語り口は聴講者を飽きさせず大好評。
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