東大生の親の年収が高いというのは、昔から指摘されていたことで、それは「親の年収が高いので、子供を学習塾に行かせるなど教育機会を多く与えることができるからだ。」という説明がなされます。「素質だ。血だ。」という豪快な説明をする人もあります。当たっている面もあるのでしょうが、別の見方もあります。結構な昔ですが、竹内洋先生(現関西大学教授)のゼミにおいて末席を汚して(本当に…)おった際、親の学歴や家庭における行動とその子供の学歴を調べた結果について学んだことがありますが、それによると、子の学歴と関係するのは、親の学歴というよりも、親が家庭でテレビを見る時間であったり、読書をしたり文化的な活動をしていたりする時間により密接に関係している、ということでありました。
親の経済的な余裕によって異なるトレーニング機会の多寡より、親の家庭における言動の質の高さが、子供の学歴に関係している。あるいは、親の家庭における言動の質の高さが子供の学ぶ意欲などに好影響を与え、与えられるトレーニング機会をより効果的なものにしている、という説明です。大雑把に言えば、親の言動によって生まれる家庭の空気こそ、子供の成長にとって最も大事だということでしょう。
違う例になりますが、我が家の小学生の娘のクラスでは、毎日、給食のおかわりがなくなり、他のクラスにまで行って残ったおかずをもらって来て、ジャンケンで取り合うそうですが、他のクラスがいつも給食を残し、娘のクラスがいつもなくなるのはなぜか。もちろん人数も配られる量も同じでありますし、娘のクラスだけ大食漢が揃っているはずはないので、それは教員が工夫の末に活性化させた空気としか言えません。他のクラスからもらってきたのを合わせて7本の牛乳を、30人がジャンケンで取り合うほど給食の時間を楽しく、盛り上がったものにしているのは、リーダーによって作られた空気です。
伝統ある学校のどこが優れているかと考えると、教員の技術やカリキュラムもあるかもしれませんし、その学校を目指して入ってきた生徒の質もあるかもしれませんが、そこに漂う空気がいいのだと感じます。先輩達が残してきた成果を見れば、自分たちも出来るのではないかという自信。ちゃんとやっていければ、先輩達のようになれるのではないかという期待。そんな自信や期待を持つことができる者たちによる、前向きで質の高い触れ合いとコミュニケーション。地域からの温かい視線に身を正そうとする喜びや、伝統を汚してはいけないという誇り。これらが相まって生まれている空気が伝統校の強さであり、そこにいる人材を大きく育てるベースとなっているはずです。
そこにある空気が、いかに大切か。企業も同じで、教え方や導き方、研修のテーマや費用や講師といったこと以外に、どのような空気がこの組織に漂い、それは人々をどのような気分・姿勢にさせているかを重視すべきです。人の成長が、その組織の空気に左右されるとすれば、この20年間に及ぶ経済低迷によってほとんどの企業で劣化したであろう空気に注目し、これを変える試みが大切だと思います。業績向上によって自然に活性化してくるのを待つわけにいきませんから、自らの工夫によって空気を変えねばなりません。トップや幹部や管理職の言動がかもし出している空気は、良質なものどうか。小学生が牛乳を取り合うように、どんなことにも夢中になれる前向きさ、あるいは伝統校の生徒たちのような自信や期待、喜びや誇りを持つために、何をすべきか。そんな組織風土づくりから始めなければなりません。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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