昔に比べるとやや減ったようですが、新人や若手を対象として、「会社に飛び込んで、たくさん名刺をもらって来い」という訓練を行っている会社は、まだまだ多くあります。誰もが知っている大手企業の若手が、弊社にも飛び込みでやって来ます。やらせている会社としては、営業成果を期待している訳ではなく、恥ずかしいとか、気後れするとか、そんな気持ちを払拭させることを目的に、育成の一環として実施しているのは今も昔も同じでしょう。長年やり続けているのは、一定の効果があるからだと思いますので、そのような研修を否定するつもりは全くありませんが、飛び込んでくる新人たちを見て、改めて「OJT(On-the-Job-Training)」について考えておきたいと思います。
OJTは、第一に「計画があること」が重要です。座学でなく、現場で何かやればそれは全てOJTだというのは大雑把すぎる解釈で、目標(習得すること、理解・発見すべきこと)が定められ、そのためにいつからいつまで、どのような活動をし、誰がそれを管理・支援するか、が具体的に決まっている状態でないと、取り組みが中途半端になりやすいために効果も限定的になってしまいます。
第二に、「職場での合意」が重要です。人によって言うことが違う、指導・注意されることがバラバラな状態は、よくありません。「たくさん名刺をもらって来い」と言われて、その目的を尋ねると、ある人は「度胸とフットワークを身につけることだ」、ある人は「同じことを愚直に繰り返す大切さを学ぶこと」、ある人は「一瞬で自分を印象づけるために、何をすればよいかを考えること」と答えが返ってくれば、混乱するでしょう。名刺を50枚もらってきて、よくやったと評価する人と、全然足りないと叱る人がいれば、困惑してしまいます。目的や評価基準は、指導側があらかじめ合意を作っておかねばなりません。
第三に、「評価と修正を行うこと」です。計画に照らし合わせ、目標に対する進捗状況を評価・チェックし、その習得のレベルなどに応じて計画を修正することです。やることと期間だけ伝えて放置してしまったり、本人の気持ちや状況が変化してきているのに同じような指示を繰り返したりしているようでは、そのトレーニングの目的を果たすことは難しいでしょう。よく「PDCA(Plan-Do-Check-Action)」の重要性が言われますが、OJTの実施に当たっても非常に大切な考え方です。
まとめると、「OJTを効果的にするためには、計画、職場での合意、評価・修正が大切だ」ということですが、近頃は、これらが出来なくなってきている会社が増えているのではないか・・・と感じます。昔は「飛び込みで、たくさん名刺をもらって来る」という訓練が、新人にとって必要だという職場の合意がありました。今は、若手をどう訓練していいか、どう接していいかよく分らないという会社が多く、実施している教育や研修について、果たしてそれでいいのかどうか職場に迷いがあります。
また、訓練をうまくこなせない、ついていけない若手に対して、上司や先輩が支援したり、叱咤激励したりという関係が日常的に普通に存在していましたが、現在では、若手と上司・先輩の間でそのような関係は相当に希薄になっています。若手それぞれのタイプや状況を評価し、上司が柔軟に修正してやるということがうまく出来ていません。「OJTを効果的にするためには、計画、職場での合意、評価・修正が大切だ」とは、言葉で言うと容易に聞こえますが、実は、ベースにある若手との相互理解や関係がうまくいっていないと、なかなか実現できないものだと分ります。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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