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2012年06月25日

最初の上司、最初の仕事の大切さ

先日、ある会社の人事部長が私の事務所で、部下についての悩みをお話しされていました。その部下は2年前に中途採用した、20歳代後半の男性。期待を持って採用したものの、営業部門でまったく業績を上がらないので、やむなく業務部門に異動させたが、そこでも色々とミスなどがあり周囲からの信頼を失ってしまった。仕方なく人事部で引き取ったが、やはり、うっかりミスや、社会人としての基本的な理解がなかったりして、周りに迷惑をかけてしまっているとのこと。注意してもなかなか改善されないので、どうしたらいいのかと頭を抱えている、というわけです。

私が「メンタルヘルス上の問題では?」と尋ねると既にケアしたこともあるそうで、人事部長は「彼には会社や仕事に対して、根本的な勘違いがある」とおっしゃいます。

この部下は、前職では非常に厳しい営業スタイルで知られる業界に、新卒で入社したそうです。以降4年間、営業職として勤務。新規開拓のための電話かけと飛び込みに明け暮れ、上司からその件数を日々チェックされる。契約を取ったらフォローすることなく、「お客様の自己責任」という姿勢で放置するのが業界の常識、という環境の中で育ってきたようです。

彼は「どれだけ沢山の顧客に商品を紹介するか」が重要だと思っているので、信頼関係を作るようなコミュニケーションが出来ず、ニーズを汲み取ったり、心理を洞察したりすることもできない。「契約したら、それで自分の役目は終わり」と考えているので、配送・請求・会計処理などには無関心。確認もしないからミスも起こりやすく、いい加減な仕事ぶりに見えてしまう。要は、お客様や職場の仲間を軽視する姿勢が、染み付いてしまっている。これが、人事部長の分析です。

以上は転職者の例ですが、会社の中でも、新卒で入社してから一つの部門でしか経験がない人に対し、他の部門の人がその考え方や言動に違和感を覚える場合があります。もちろん、転職や異動をきっかけに、考え方や働き方を適切に変えることができる人もいます。しかし、学校を出て最初に入った会社のスタイルや風土、上司の考え方や指導内容の影響は大きく、それがすっかり染み付いて変えられない、直らないという人はとても多い。

鳥などの動物には、卵から孵化して最初に見た物体を親だと認識する「刷り込み」という習性がありますが、同じように、ビジネスマンが最初の仕事、最初の上司に刷り込まれるように受けた影響は、計り知れないほど大きいと思います。ビジネスや会社について何も知らずに入社し、手探りの状態で仕事に取り組むとき、頼りにするのは上司の言動の一つ一つです。無垢であればあるほど吸収されやすく、無知であればあるほど正しいと信じやすく、真似をしているうちに、自分の中でそれが固定されてしまう。そうなるのに、大して時間はかかりません。

今年度も間もなく3ヶ月が経とうとしていますが、今年4月に入社した新入社員を預かった上司の皆さんは、こういった影響をどれくらい意識しておられるでしょうか。自分の言動が、新人達に刷り込まれ、その後のビジネス人生を左右してしまう可能性があることを、改めて心する必要があるでしょう。私のことを言えば、今、曲がりなりにも何とかやれているのは、最初の上司で、現在は大和ハウスグループのマンション管理会社、大和ライフネクストの取締役である石崎順子さんに、上手に「刷り込んで」いただいたからではないかと思っています。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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