チームやプロジェクトのリーダー、あるいは、組織の指導的立場にある人にとって、目標設定は重要な役割です。目標は仕事の出来を左右するのはもちろん、メンバーの行動や士気にも大きく影響するからです。しかしながら、企業の「目標設定シート」などを見せていただくと、大して考えずに記入したのがすぐに分ってしまうような内容が散見されます。経営層から下りてきた数値目標を書いているだけ、前回も、その前も書いていた目標をまた書いている。これで半年後、一体どうやって評価するのだろうと不思議に思うような抽象的な記述ばかり…。目標の重みを感じていない人が、いかに多いことかと想像します。
実際に、企業の管理職の方に聞いてみると、「目標は経営者が決めるもので、自分はそれをやるしかない」「やることは決まっているので、改めて目標設定する必要がない」などという答えが返ってきたりしますが、目標設定(とその発表や伝達)は、チームに対して行う”リーダーの最初の仕事”であると認識しなければなりません。加えて言えば、「評価するのが難しい、うまくいかない」という管理職の定番の悩みがありますが、その最大の原因は、目標設定が下手だからなのです。
目標を上手に立てるためには、まず、目標の種類を覚えることがポイントです。まず、「業績目標」「能力目標」「情意目標(取り組み姿勢)」の3種類は基本。健康管理で例えてみますと、
【1】業績目標:体重5キロ減
【2】能力目標:強い足腰と心肺機能を持つ
【3】情意目標:食生活に気を配る
といった感じになります。
目標というと、つい業績目標だけに目が向きがちですが、能力の向上や取組み姿勢(働きぶり)についても設定すべきです。なぜなら、ほとんど全ての会社において、業績だけでなく、能力や取組み姿勢も評価の対象にしているからです。「ウチは業績中心の評価だ」という会社だって、さすがに昇格や昇進に当たっては、能力や取組み姿勢をちゃんと評価して決めているでしょう。評価するなら、目標を設定しておくのは当たり前。目標になかったのに、評価するのは反則です。評価される側からすると、「そんなの聞いてなかったですよ~」となりかねません。
能力目標や情意目標(取組み姿勢)に近いのが、「行動目標」というものです。これはどのような行動ができるようになるか、どのような行動をするか、を具体的に表現したもの。上記の能力目標で例にあげた「足腰と心肺機能の強化」を、行動目標に書き換えれば、「10キロを50分で走破できるようになる」などになりますし、情意目標「食生活に気を配る」を行動目標に書き換えれば、「毎日、朝ごはんをしっかり食べる」「毎食、野菜を取る」といった感じになります。行動に焦点を当てると、より具体的な目標になりやすいのがお分かりいただけると思います。
また、「期待目標」「到達目標」という分類もあります。学校現場ではよく使われる言葉ですが、期待目標は、期待できる最大限のレベルを表すもので、挑戦的な高い目標のこと。到達目標は、確実に達成・到達してもらわないといけない、最低限の目標です。要は、目標の難易度の差なのですが、例えば「業績目標」における「期待目標」と「到達目標」といった具合に、上に書いた3つの目標に、レベルを設定することも可能だということになります。ちなみに、この2つの目標をそれぞれ、「チャレンジ目標」「必達目標」と言い換えている会社もあります。
ここまで目標の種類をご紹介しましたが、それぞれの目標を設定するには、次の2点に気をつけなければなりません。
1つは、組織の目標と個人の目標を、しっかり関連づけること。個人が掲げた目標を足し合わせていったときに、組織の目標に対して過不足がある状態ではいけません。皆が頑張ったけれども、全体としては駄目だったとなりかねないからです。
2つ目は、評価・測定しやすい表現かどうか。達成されたような感じもするし、そうでもない気もする。後でそうならないためには、時期を明確化すると共に、達成の基準やレベルや状態を具体的に表現することが必要です。以前、ある管理職の方の目標に、「労働生産性の向上」という表記がありましたが、数値や時期で達成基準を示しておらず、評価・測定できない目標の典型例と言えるでしょう。「新商品の開発」とか「・・・企画の提案」といったものも同じ。開発とか提案といっても、色々と考えられるので、社内決裁とか発売決定とか導入といった文言にしなければ評価が難しくなります。
目標設定は難しいものです。SMARTの法則(※スペースの関係でここでは触れませんが、インターネットで検索すればすぐに出てきます)といった簡単なフレームを学ぶことで、効率的に目標を設定できるようにはなりますが、それだけで良いわけではありません。目標設定とはマネジメントのスタートなのであって、惜しみなく時間をかけて取り組むべき重要な仕事です。管理職の思考の中身や本気度を知ろうとするなら、その目標設定シートを見るのが一番。優れたリーダーは例外なく目標設定が上手だと思います。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
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