ここ10数年、企業が社員に対して求めてきたのは、「自立」と「自律」でした。組織にぶら下がり、その傘の下に入って安心しているようではダメ。会社から与えられる指示を待ち、その仕組みや慣習の枠の中でしか動けないようではダメ。何でも会社に期待するのではなく、自分の頭で考え、独力で学び、成長して、自分の力で稼ぎ出せる社員になってもらわないと困るという姿勢を、企業は鮮明にしていきました。昔のように社員の面倒をみつづけられるほどの余裕がなくなってきたという本音の一面もありますが、企業が自身の競争力を高めるために必要なことであり、正論と言えるでしょう。
いずれにしても、企業が置かれている環境を考えれば、「自立」「自律」は確かに大切なコンセプトです。しかしながら、それがやや勘違いを生み、思わぬ副作用が出てしまった点を指摘しておく必要があると思います。「自立」「自律」が大切だからといって、組織に属している事実には何も変わりはなく、周囲のおかげ、他部署のおかげ、上司は部下のおかげ、部下は上司のおかげで、こうやって仕事ができるのは今も昔も同じことです。ところが、そのような他者へ依存している事実、またその事実を見つめることによる他者への敬意が、「自立」「自律」というコンセプトによって薄れつつあるように感じます。自立は、それぞれが勝手気ままに動いている状態ではありませんし、自律的であるとは、仲間と無関係に行動することを意味しません。
ものの分っていない子供が、「生んでくれって頼んだわけではない。干渉するな。」と親に文句を言うかのような、何をしようが自分の勝手、個人の自由、自己責任といった発想が職場での行動に見え隠れするようになりました。上司、部下、他部署、その他の関係者の行動にモノ申せなくなってきたのも、逆に、あれこれ言われたくなくなってきたのも、「自立」「自律」というコンセプトの勘違いであり副作用だと思います。
会社とはそもそも投資や借金というリスクマネーからスタートしており、その責任を負っている社長や投資家のおかげで雇用や仕事が存在しています。商品があり、顧客基盤や信用があるのは先輩たちのおかげ。机やパソコンや電話が揃っている、請求や発送などの作業をしなくていい、税や保険料を納める作業もしなくていい、掃除をしてくれる、お茶をいれてくれる、電話の取り次ぎやお客様の案内をしてくれる・・・、挙げればキリがありませんが、個人でやったらどれだけ大変かを考えてみれば、身近にいる他者へ依存している自覚とそれへの敬意が必要であるのはすぐに分ります。私達は決して、たくさん買ってくれるお得意様だけに依存しているのではありません。
多くの組織でセクショナリズムやコミュニケーション不足が問題となっていますが、他者へ依存しているという意識が低下すれば、一体感や連帯感がなくなるのは、当然の成り行きです。イメージで言うと、「自立」「自律」は格好いいし、「依存」というと独り立ちできていない、幼い感じがしますが、周囲への依存なしではやっていけないのが私達の現実です。依存している自覚とそれへの敬意を取り戻し、感謝や労いの言葉があふれる職場を作り、その上でそれぞれが「自立」と「自律」を追求する。そうでなければ、「自立」「自律」は単なる孤立であり、組織力のない寒々とした職場になってしまうでしょう。最近よく口にされる「絆」は、おかげさま、お互いさまという気持ちの結果として生まれるものだと思いますが、身近な職場の人達との絆を作るためには、そんな気持ちとそれに基づいた行動がまずは大切なのではないでしょうか。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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