ここのところ、人手不足が盛んに報道されるようになりました。実際に、牛丼チェーンでは、人がいないので店が開けられないという事態も起こっているようです。建設作業員の求人倍率は5倍とか7倍とかいった数字が出ており、「作業員がいないので工事が遅れている」、「作業員の人件費の高騰で建設費が跳ね上がり、事業採算が合わない」という不動産デベロッパーの切実な声が聞こえてきます。介護や医療も同様で、人手不足が現場の人たちの負担となり、疲弊を生み、結果として安心・安全が脅かされる可能性もあります。
ただし、全ての仕事で人手不足になっているわけではありません。給与水準が低い職種・業界やいわゆる3K職場で若者や女性に敬遠されてきた仕事、離職率の高い業界において、人手不足が顕著になっています。このような業界・職種が、待遇や職場環境を改善することによって人手不足を解消できるかどうか、あるいは人手不足が他の業界や職種にも広がっていくのかどうか。広がっていった場合に、女性、高齢者、外国人の雇用・活用をどのように拡大していくかなど、人手不足を中心とした雇用問題は今後の経済において大いに注目され、議論されるべきテーマとなっていきそうです。
現実的に人手不足を解消する方法は、人を採用するか、定着率を高めるか、生産性を向上させるか、しかありません。誰でも分かることなのに、なかなかうまくいかないのはなぜでしょうか。
採用に当たっては「若い男性」「経験者」を優先し、女性、中高年を敬遠する傾向はまだまだ多くの業界で残っています。女性は結婚などですぐ辞める可能性がある、家庭を持っている主婦にはできない、女性社員をマネジメントした経験がないので扱いが分からない、業界の慣習で男性がやることになっている仕事だ、といった理由で募集段階から女性を排除している会社はたくさんあります。中高年についても、それまでのキャリアにおいて癖がついてしまっている、年齢的に成長・進化が期待できない、という先入観で見ており、なかなか採用には至りません。
定着率を高めるのが大事だと思ってはいても、現場の上司は部下への目配りを増やすこともなく、組織運営やコミュニケーションを見直すわけでもなく、単に「セクハラ、パワハラは問題になるので注意しよう」というくらいで、効果的な行動改善は行われていません。居酒屋へ繰り出しては、「いまどきのヤツは・・・」「女だから・・・」と愚痴る上司の多いこと。人が定着しない原因を、自分の言動に求める上司はかなりの少数派であろうと感じます。
生産性の向上については、ここ20年ほどの不景気やデフレ経済の中で、コストや人件費を下げることに注力してきましたが、これには当然限界があります。生産性とは、投入コストに対するリターンですから、そもそものビジネスモデル(割の合う商売なのかどうか)、市場や競合を見据えた各分野の戦略、効果的な組織編制と役割分担、働く人たちのスキルとやる気、などの結果として捉える必要があります。つまり、コスト削減に留まらない、総合的なマネジメント力の問題です。従って、なかなか生産性が上がらない現状は、マネジメント層の責任が問われるべきであろうと思います。
このように見ると、人手不足の根本的な原因は、男性中心主義から脱皮できない組織であり、その中で変化・進化できない男性マネジャーであるとも言えるでしょう。人手不足の解消は、まずは、男性中心主義を脱皮し、女性や高齢者に対するバリアーを取っ払うこと。そして、男性ばかりのマネジャー階層の意識・役割・能力を徹底して見直すことから始める必要があるのではないかと考えます。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
ビジネス|人気記事 TOP5
女性に下駄を履かせるとは?~女性活躍推進の現状~
藤井佐和子のコラム 「企業・個人を豊かにするキャリアデザインの考え方」
高齢者が病院に行きすぎてしまう理由
川口雅裕のコラム 「人が育つ会社、育たない会社」
逆境を乗り越えよう
宗次徳二のコラム 「宗次流 独断と偏見の経営哲学」
デジタル化とは何か? そのメリット、デメリットと具体的な事例
久原健司のコラム 「IoT・AIで地方の問題を解決する」
社会で自律的に活躍するために必要な「自己肯定感」
藤井佐和子のコラム 「企業・個人を豊かにするキャリアデザインの考え方」
講演・セミナーの
ご相談は無料です。
業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。