日経新聞のスポーツ面に連載されている「スポートピア」というコラムを、楽しみにしています。毎回、なるほどと思わされるのは、Jリーグのチェアマンである村井満さん。村井さんは、リクルートグループの5つ上の先輩に当たり、村井さんはリクルート、私はリクルートコスモスと会社は違いましたが、同じ人事畑で色々とお世話になったり、教えていただいたりした関係です。
村井さんは、とにかく丁寧に人の話を聴こうとする人。こっちが少々無理筋の話をしていても、まっすぐに視線を向け、うなづきながら聴いてくれます。(無理筋を自覚しているので、これが逆に厳しかったりする訳ですが。)結論を押し付けたり、強引に説得したりもしません。バブル崩壊後、子会社の人事マンとして親会社の人事部長であった村井さんには、何度かお願いやお伺いに行きましたが、その際の無理っぽい話も誠実に聴いていただいたのを覚えています。2月10日に掲載された『「実は…」本音語る組織に』も、そんな村井さんらしい内容でした。(以下、引用)
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「実は」は本音や真実を明かすときに使う言葉で、「実は子どもが3人いて、この給料では妻に反対されそうなんです」というような打ち明け話につながる。この言葉を使わせたら、本音を聞けたことになる。本音を聞かずして、その人を評価するのはおかしいわけで、ここまでいかないと、いい面接とはいえない。
(中略)
Jリーグ事務局では約50人の職員が働いている。昨年10月から、その全員とそれぞれ1時間半の個人面談を行った。子どものころの話に始まり、学生のときはどんなことに夢中になっていたか、なぜサッカーが好きになったのか、なぜJリーグで働いているのか……。その面談の中で「実は」がけっこう出てきた。
(中略)
相手を知らないと、リスペクトはできない。どういう人かがわからないと「あいつ、何であんなことを言うんだろう。とても理解できない」で終わってしまう。意見が合わないのは相手の人間性に問題があるからだと考えがちだ。しかし、その人の経験の蓄積やバックボーンを知ってみると、とたんに建設的な議論ができるようになる。
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昔、東京体育館で障害者雇用の合同面接会があったときのこと。確か、私がいたブースの2つか3つ横のブースに村井さんが座っておられました。二人とも、応募者との面談をずっと繰り返していたのですが、ふと横を見ると、村井さんが手話で会話をしています。聴覚障害を持つ人との面談のために、手話を学んでいたというわけです。私はと言えば、筆談・・・。瞬間「カッコイー」と思いましたが、だんだんと自分の努力不足に対して情けない気分になりました。村井さんの、人に向き合う姿勢にすっかり感じ入った思い出です。
Jリーグに行かれ、50人と1時間半の面談をされたといいます。これが出来る人はどれくらいいるでしょうか。50人に対して1時間半、説教をかます人はいそうな気がしますが、1時間半、耳を澄ませ、「実は」が出るまで傾聴しつづけるのは、普通の人間にはなかなか出来ることではありません。その聴く姿勢の相変わらずのすごさを通勤電車で読んで、ため息が出る思いでした。
ここまでは出来ないとしても、人に向き合い、傾聴し続けることの重要性は、特に上司と呼ばれる皆さんは見習うべきでしょう。業務上の指示・指導をする、目標設定や評価をする、その人の成長を考える、どのような場面においても重要なのは、部下をどれくらい理解しているか、どれくらい部下に理解されているかです。「部下を見抜いている」のではありません。部下が「実は」と言う言葉を吐いて、本音を語るまで誠実に粘り強く耳を傾けているかどうかです。
部下の指導法、評価法などを勉強するのも悪いことではありませんが、そもそも、部下をちゃんと理解しているか、部下は私に心を開いてくれているのか。そこから考えなければならないと、村井さんのコラムは教えてくれています。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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