「理想の死に方」を尋ねると、多くの高齢者が「ピンピンコロリ」と回答されます。その意味は、家族の手を必要以上に煩わせることなく、自立生活ができて、自分らしい暮らしぶりを維持しながら最期を迎えたいということです。「何で死にたいですか?」といった直球の質問をすると「がん」と即答される方が結構多いのも、そのように死ぬことができる可能性が高いのが「がん」だと考えておられるからでしょう。
さて、この「ピンピンコロリ」ですが、いくつか調べてみると、「亡くなる直前まで病気に苦しむことなく、元気に長生きし、最後は寝込まずにコロリと死ぬこと」「死ぬ直前まで元気で過ごし、病気で苦しんだり、介護を受けたりすることがないまま天寿を全うすること」とされています。要するに、ピンピンコロリとは、無病状態からの急死・突然死であるとしているわけです。
そして、「ピンピンコロリで死ねる可能性は非常に低い(「無病からの急死」と定義すればそうなるのは当然ですが)」としていますが、高齢期のライフスタイルの充実について調査・研究・提言するNPO法人「老いの工学研究所」理事長を務めている筆者からみると、このような解説には違和感を覚えざるを得ません。「ピンピンコロリで死にたい」とおっしゃる高齢者が、「急死したい」と言っているわけではないからです。
そして、ピンピンコロリを「急死」と定義し、「無病状態から、急に死ぬ可能性は低い」というのを「ピンピンコロリで死ねる可能性は低い」と言い換えたら、多くの人たちを勘違いさせるに決まっています。ピンピンコロリが急死の意味で使われているだけなのに、「高齢者になると、皆がいずれは重い要介護状態になり、周囲に迷惑をかけて生きていかざるを得ないのだ」と思い込んでしまうでしょう。
「ピンピン」とは何なのか
先述のように、高齢者が考える「ピンピン」とは、自立生活ができていることです。決して無病状態のことを言っているわけではありません。
そもそも、高齢者の健康状態は「無病」か「介護」かという単純なものではありませんし、介護状態といってもその程度は、かなり大きな幅があります。例えば、複数の持病と付き合いながら、要介護1の認定を受けてはいるものの、多少の助けを借りながら自宅で自立して暮らしているような人はいっぱいいます。会えば誰でもそう思うはずですが、その暮らしぶりは「ピンピン」といって差し支えありません。この状態のまま、急死ではなくお亡くなりになれば、明らかにピンピンコロリです。
「平均自立期間」という考え方があります。「自立して暮らせる生存期間の平均」のことで、あまり知られていませんが、健康寿命の算出方法の一つです。よく使われている「健康寿命」は「日常生活に制限のない期間の平均」といわれるもので、主観的かつ全世代調査なので若く出るのが特徴で、「自立して暮らせる生存期間の平均」とは考え方も算出方法も全く異なります(拙著「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」に詳しく記しています)。
平均自立期間の算出にあたっては、健常~要介護1までを「自立期間」、要介護2~5までを「介護期間(非自立期間)」とします。筆者はこれに準じて、「『ピンピン』とは、自立した暮らしを意味し、健常~要介護1までの人のことをいう」と定義すればとても分かりやすいと思います。こうすれば、高齢者の方の認識とも一致しています。考慮が必要だとすれば、治療不可能な終末期に必要となる介護をどう考えるかですが、そんなに長期に渡るわけではないので、その前の状態で考えればいいというのが本人および家族の認識でしょう。筆者の父親も最期はホスピスで1カ月ほどを過ごしましたが、ピンピンコロリだったと思っています。
「ピンピンコロリ」は、ほぼ実現している。
健常~要介護1までを「自立期間=ピンピンした状態」だとすると、その割合は、80歳代前半で約88%、80歳代後半で約77%、90歳以上で54%となっています(厚生労働省「介護保険事業報告」から筆者算出)。
65歳の人の平均余命は、男性で19.85年(約85歳)、女性で24.73年(約90歳)です。従って、ピンピンコロリの確率(健常~要介護1までで亡くなる可能性)は、7~8割はあるということになります。90歳を超えても、ピンピンコロリは5割くらいの確率で実現するということです。
ホスピス財団が行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査2023年」で、理想の死に方について聞いています。それは、2択になっています。「ある日、心臓病などで突然死ぬ」か「(寝込んでもいいので)病気などで徐々に弱って死ぬ」の、どちらかを選ぶ方式です。
つまり、「急死」か「寝たきり」かという究極の2択。そう聞かれれば、寝たきりを嫌がる人が多いに決まっています。実際、70代は、76.7%が「急死」を選びました。しかし、現代では医療の発達などで、急死はなかなか難しいもの。このような調査結果をもって、「ピンピンコロリを望む人が多いが、(急死という意味の)ピンピンコロリはなかなか難しい」とするのはあまりに強引でしょう。
多くの高齢者が望んでいるピンピンコロリとは、無病からの急死ではなく、「終末期の直前まで、要介護1くらいまでで自立生活ができていること」です。そう考えれば、実は、もう既にピンピンコロリはおおむね実現しているといっても過言ではないのです。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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