従業員の健康保持・増進を経営課題として捉え、これに積極的に取り組むという「健康経営」の考え方が徐々に広まってきています。続々と本も出版されていますし、経産省(健康というと厚労省を連想しますが)も東京証券取引所とともに一部上場企業を対象にした「健康経営銘柄」を選定するなど、その周知・浸透に熱心です。もちろん、従業員が心身ともに健康であるのは、誰も異論を挟めないほど良いことに決まっていますし、積極的に取り組むべき課題でありますが、やや首をかしげてしまうような話も目にします。
「従業員が健康である企業ほど生産性が高く、業績も好調である。だから企業はもっと、健康投資を積極化すべきだ。」と言う人がいますが、これはニワトリ・卵のような話。健康投資をしたから儲かるようになった、とは限りません。生産性が高いということは、労働時間も短い傾向にあるでしょうし、仕事のストレスも軽いでしょう。業績好調で健康投資もしやすい。儲かった(生産性が上がった)結果として、健康になったのかもしれません。
「健康の増進は、モチベーションの向上につながる」と言う人もいて、それは分かりやすい話ではありますが、そのモチベーションが仕事の成果につながるかどうかは分かりません。単純作業ならそうなるでしょうが、クリエイティブな側面を持つ仕事などが典型ですが、やる気があれば仕事がはかどるというような簡単な話ではないでしょう。
「健康経営を推進すると、企業イメージが上がる」という話は、よく分かりません。やはりこれもニワトリ・卵のようなもので、企業イメージが良いのは長年に渡って高い収益性を上げてきたからで、その結果として健康投資ができ、社員が健康になっている可能性は高いでしょう。だいたい、社員の健康状態を社外に向けて証明するのは非常に難しいわけで、健康経営の推進が企業イメージの向上につながるというのはその因果関係が理解できません。(風吹けば、桶屋が儲かるという感じの理屈なのでしょう。)
上のいずれもが分かりにくいのは、綺麗事だからです。もっと正直に言うべきだと思います。企業にとっては、社員が健康になれば、健康保険組合の財政が楽になる。国にとっては、経産省が担当しているとはいえ、本音は、「医療費の削減」と「生涯現役(社会保障に頼らず、働いて稼いでほしい)」と、その先の健康寿命の延伸。簡単に言えば、企業と国のコスト削減が目的であるわけです。現状を考えれば当然のことなのに、どうして「健康経営」などと耳障りのよい言葉を作り出し、回りくどい言い方をするのでしょうか。(社員や市民を、やや馬鹿にしたような印象を受けますが。)とはいえ、誰にとっても良いのは間違いありませんから、健康経営がもっと広まることを期待します。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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