■ルーチンの効用
私が新卒で入った会社での最初の仕事は、テレアポでした。新卒の採用担当として、毎日朝と夜、目の前に積まれた名簿から1件1件電話をして会う約束を取り付けることです。今ならメールで一斉に告知すれば、学生がWebから予約してくれるし、場所や持ち物や服装などサイトに記載してあるので見て下さいで済むのですが、そういう便利なものはありませんでしたので、毎日4時間は電話で同じことを言い続けていました。
人事では他にも、タイムカードの集計とか、変更届の金額を手計算するとかいった単純な作業系の業務が沢山あって、それらは概ね新入社員や若手が担当する仕事でした。人事部に限らず、ここ15年位でこういったルーチンは、主としてIT化によって激減もしくは消えてしまった訳ですが、このことが新人の定着や育成にとってマイナスの影響を与えた面があります。ルーチンには、以下のような効用があったと考えられるからです。
新人にとって、自分でも出来る仕事、自分が任せられた仕事があるのは、どのような業務であれ嬉しいもので、難しくて出来そうもないことや、先輩と同じような仕事を与えられて出来ないことが明らかになるよりもストレスなく取り組むことができます。また、自分が電話でアポをとった人が採用された、自分の計算が反映されて給与計算が完了したといったことは、少しのことだけれどもチームの一員として機能した、貢献した気がするもので、組織へのロイヤリティも生まれやすくなります。
ルーチンには学びになることもあって、例えばテレアポのトークを工夫したり、相手の反応にパターンがあるのを発見したりすることで、アポとりや電話対応のコツが分るようになってきます。給与計算でも、電卓を見ずにたたけるようになり、計算ミスが起こりそうな所が予想できるようになり、税や保険料の仕組みや数字が頭に入ってきて、いずれは人件費の総額や構成が概ねイメージできるようになります。
さらに、私がルーチンを最初に経験し(徹底させられて)、最も良かったと思うのは「フロー状態」と言うこともありますが、没頭・集中してとても頭が活性化する感覚を覚えたことです。最初は反復行動が面倒でイヤなのですが、時間が経ってくるとそんなことは忘れ、集中力が高まり、スピードも工夫も出てくる。私は今、何かに取り組むときにいかに早くその状態に入れるかを意識しています。
■4つの「マネジャー像」
では、育成ツールとしての作業、ルーチンが減ってしまったこの時代に、マネジャーはどうあるべきか。「マネジャーの育成スタイル(ポリシー)」を考える為の一つのフレームを提示したいと思います。
(1)「放任」か「関与」か
『本人の意思を尊重し、細かいことは目をつむって任せたほうが良い』(放任)と考えるか、『しっかりと目を光らせ、細かに指示・指導を施すべきである』(関与)と考えるか。
(2)「挑戦」か「反復」か
『新しい分野や難しい課題に取り組ませることが成長につながる』(挑戦)と考えるか、『一つの課題への集中と繰り返しが習得と気づきへの近道である』(反復)と考えるか。
(1)を縦軸に、(2)を横軸にとって4つに分類したのが、下図です。
・放任と挑戦を選んだ方は、右上の【鳥井信治郎型】。
「やってみなはれ。」で有名なサントリーの創業者。
口出しせず見守り、自主的に挑戦することを良しとするタイプ。
・関与と挑戦を選んだ方は、右下の【教育ママ型】。
塾もピアノもスイミングも…というのと同様に
色々な課題に取り組ませ、細部まで気にかけて指導するタイプ。
・関与と反復を選んだ方は、左下の【鬼コーチ型】。
「グラウンド10周!」といった繰り返しで基本を徹底し、
サボリや緩みのないよう目を光らせておくタイプ。
・放任と反復を選んだ方は、左上の【高倉健型】。
やることもやり方も本人に任せ、教えることも指示することもなく
黙っている、又はオレの背中を見て学べというタイプ。
こう見てみますと、高倉健タイプや鬼コーチタイプは、反復を大切にするという意味でルーチンの存在を前提にした育成スタイルであると言えます。昔なら「それぞれのタイプの良さがある」ということで良かったのでしょうが、前述のようにルーチンが減っているこの時代において、少なくともその対象が新人や若手の場合には、この二つのタイプのマネジャーは、やや通じなくなっているかもしれない、育てることが難しくなってきているかもしれないことを意識すべきだと考えられます。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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