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2010年09月24日

人事制度と人材育成の関係

ある有名アパレルメーカーの人事担当者たちと、飲みながら会話をした時のこと。社員数600名以上の大きな会社なのですが、なんとその処遇について、いまだに社長が鉛筆なめなめ(仕組みがなく、現場に評価を任せず、社長の判断で個別に処遇を決めている状態)でやっているのに近い…という話を聞いて、私は驚きました。

実際に彼らは、自分たちの昇給や賞与がなぜそういう額になっているのかは、全くわからない、誰かが昇進したというのも社長が認めた、気に入ったということだけが根拠なんだろうと思う、人事制度は一応あるけれど、しっかり運用はされていないと言います。ところが彼らの表情からは、決して不満を述べているのではないことが分ります。600人を大したルールもないのに、不満なく処遇することができる社長の能力。これは、凄いとしか言いようがありません。

一方で彼らは、人材、特に「真の経営幹部」や「変革を起こせる人」が育ってきていないということを、(明確ではないものの)問題として感じているようでした。前者は、この凄い社長に示唆や刺激を与えることができたり、社長の思想やコンセプトを形にして現場に見せることができたりする人のことだと思います。後者は、従来のブランドパワーやビジネスモデルに乗っかっているだけでなく、これを利用して新しい事業や商品を産み出すことができる人、イノベーティブな創意工夫あふれる人材といったイメージでしょう。事業は堅調であるけれども、このような人材がいないことで会社が変わっていかない、将来はどうなるのか…といった不安を感じているようでした。

ここに、人事制度が持つ二つの側面を見ることができます。一つは、制度がなくても不満のない処遇をしている会社もある、つまり、「処遇に不満が出るのは人事制度がないこと、整備されていないことが原因ではない」ということです。単に人事制度をしっかり作ってルールや運用方法を明確にすれば、処遇や評価への不満がなくなるというわけではない。決めた人に対する信頼やその結果への納得感があり、給与水準への安心感があれば、制度などなくても一向に問題はないわけです。人事制度は、処遇への納得感を高めるために絶対的に重要ということではなく、一つのツールでしかないということです。

もう一つは、「人事制度は育成システムとして非常に重要である」ということ。良い人事制度とは何かと聞かれれば、私は「階層や職種や仕事ごとに、期待されていることがシャープな言葉で端的に表現されている。」ことが絶対の条件だと答えます。どうも、給与や賞与のテーブルや算式に視点が集中してしまっている会社が多いのですが、それよりも、等級定義や評価基準において、期待や求めたいこと(どのような人材像を理想とし、成果や能力や働きぶりにおいて何を期待しているのか)が、シンプルにメッセージされているかどうか、またその表現の巧拙のほうがはるかに重要です。

前述の会社で言うなら、幹部に求めること、イノベーティブであることを明文化しておらず、だからこれを求められているとは思われず、せいぜい時折社長がスピーチで述べたり、飲み会で叱咤したりしているだけなので、幹部や創意工夫ある人材が育っていないのだと思います。人材育成を考えるとき、つい研修やマネジメントだけに期待しがちになりますが、人事制度が持つ人材育成システムとしての機能を軽視してはなりません。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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